■「来て欲しくない客は?」
福岡市内の飲食店経営者向けフリーペーパー「Grip(グリップ)3000」が今年9月29日、創刊した。発行は、地元タウン誌で編集を手がけていたメンバー4人が今年4月に立ち上げた「INSIDE(インサイド)」(福岡市中央区渡辺通5)。
「福岡の飲食業界の質の向上が目的。このメディアが店側のヒントとなれば」と話すのは同誌の濱村哲郎編集長。テーマは「本音」、ただ一つ。経営者のほか、飲食店を顧客とするサプライヤー(業者)、客が執筆した「本音」のコラムや編集部が独自に調査したデータなど、さまざまな切り口で紹介する。中にはペンネームを使い覆面ライターとして飲食業界に対する思いを赤裸々に書く執筆者もいて興味深い。街頭のラックなどには設置せず定期購読のみ。登録した市内飲食店経営者に郵送で届ける。現在の発行部数は3,300部。
「来て欲しくないお客様っていますか?」――創刊号の表紙にはさっそく「本音」が踊った。誌面を開くと「マナーの悪い人」「泥酔客」「香水のキツイ人」などの答えがビッシリ。神様じゃないお客様だっていますとも!と待ってましたとばかりに飛び出す店側の不満。「東京出店で成功する自信はあるか?」「ネットでの誹謗中傷を受けたことは?」「消費期限にはこだわるが、賞味期限にはこだわらない方ですか?」などの質問も並び、誌面からは飲食店経営者が口を尖らせて話す様子が浮かんでくるような生の声が満載だ。
■最新号は「宴会」を特集
「会社の忘年会、あの苦手な取引先の忘年会にもやっぱり顔出しとかないといけないよな…。あーあ。今から考えるだけで憂うつだ
よ」。この季節、あちらこちらのビジネスマンの心の声が聞こえるのなら、街中こんな声で溢れかえっているのかも。今月
29日に発行された最新号では、年末に向け増えてくる「宴会」を特集。飲食業界のかき入れ時、幹事という大役を仰せつかった新入社員は何を基準にどんな店を選んでいるのか?
「会社の宴会に行きたいですか?」「会社の宴会、プライベートな宴会の予算は?」など14の質問を市内の企業28社100人にアンケート調査を依頼。1企業5人程度で偏りのないよう20代~50代までの男女に募った。
「今年の忘年会への出席の数は減らしたい?増やしたい?」との問いには79%が金銭面を理由に「減らしたい」と回答。「会社の宴会を選ぶときの優先順位」は1位=値段、2位=料理・立地(同率)、4位=店の仕様(収容人数など)、5位=雰囲気との結果が。景気回復の兆しが一向に見えないこのご時世、誰もがお金の心配が第一のようだ。平均的な予算についての質問には、3,000円以内=18%、4,000円以内=54%、5,000円以内=26%、それ以上=2%と出ている。
「金
銭的な面から、宴会の回数を減らしたい傾向にあるのは確か。だからこそ、一回の宴会にかける客のニーズは高くなり、店へのシビアな評価につながる」と濱村編集長。「宴会時期の空振りは店にとって大打撃だ」。
「宴会の予約数、客数を次から次にさばいていくバブル期のスタイルから、一団体といえどもきちんとした対応を行い、満足の高さ=後の営業にじわーっと聞いてくるのでは。団体の一人ひとりを大切に、店でできる最大限のサービスをすることが今の時代、客の気持を一番につかむ方法ではないか」と分析する。
■福岡の飲食業界の向上へ
「景気が悪い、最近の客は財
布のひもが固いとか言ったって仕方ない。何の解決にもならない。不景気も味方につけてアピールしていかないと生き残れませんよ」(濱村編集長)。「この状況でも客が何を求めているかを受け止め、把握して今までと違うことをしていかなければならない。それが挑戦」。
次号では、飲食店と取り引きのあるサプライヤーにスポットを当てる。営業不振の切り札を目指して開発した新商品やサービスを誌面で紹介するという。今日も客のいない寂しい店内で新聞を広げる経営者の直接的なヒントになるものがあるかもしれない。
また、同誌を通じての新たなビジネス展開も視野に入れて進めている。メニューのアドバイスやホームページ作成のほか、販売促進の直接的な行動の前に店が何を指示されているのか、どの点が問題なのか、接客知識は充分かなど、インテリア設計者や企画プランナー、コピーライターらプロのクリエーターがあらゆる角度からリサーチする調査プロジェクトを展開していく予定。試験的メニューや販促商品の導入など読者である約
3,000人の経営者とのネットワークも生かした企画も進行中という。
「福岡市は狭いが、消費者の動向、外食に対して期待する客のニーズについてマーケティング都市でもある福岡は良いサンプルになる」と濱村編集長。「飲食業界の流れや他県の経営者にも参考になるはず」。
「全国的にも評価の高い福岡の飲食状況をさらに盛り上げ、世界中の人に満足してもらえる食文化提供の街になるお手伝いをしたい」と意気込みをみせる。
さて、今日はどこに行こう。掘りごたつでホッコリできる居酒屋?最近できた多国籍料理の店?それとも真っ赤なソファのあるおしゃれなカフェ…?日々、選択肢は増え続ける。選択肢が多すぎて何が何やら。クーポンマニアになりすぎて、あれよこれよと探索しつつも、最後はやっぱりいつもの店に足が向く…。大将と客。お互いの「ホンネ」を知っちゃえば、あとは譲り合って思いやるだけ。泥酔したって、優良客だって、大将と客以前に「人と人」。人の「本音」が福岡の飲食シーンを動かす新たなスパイスとなるか。
文・写真/編集部 秋吉真由美