■きっかけは「函館バル街」
井手さんは昨年4月、プライベートで訪れた北海道・函館市で2004年より開催されている「函館バル街」に客として参加した。「街を回遊する仕掛けとしては面白い」とすぐにピンときたという。「天神と博多をつなげるイベントとして福岡でも開催しよう」。参加店舗の開拓など約半年で準備し、同年11月の開催にこぎつけた。
参加店舗の条件は「路面店、地元資本であること、カウンターがあること、気になる・行ってみたい店などを基準に選ぶ」と井手さん。1回目は「料亭きくしげ」(西中洲)やすしの「忠助」(春吉)など、主に天神や大名、今泉、西中洲、春吉地区のすしやスペイン料理、中華料理などさまざまなジャンルの店54店舗が参加した。チケットは2,558冊を販売し、当日は約1万1,000食が提供された。20~60代まで幅広い年齢層の客を集め、人気店には1時間待ちの行列もできた。中には用意したピンチョスが開店から30分で完売する店舗もあった。
「次の開催はいつ?」「うちの店も参加したい」など参加者をはじめ、飲食店オーナーからの問い合わせも殺到。今年は博多エリアの参加も大幅に増え、計77店舗が参加する。
■今年はチンドン屋も出没!?
好意的な意見が上がる一方、「待ち時間が長い」「目当ての店に行けなかった」などの厳しい声も。今年から各店の混雑情報を携帯でチェックできるようホームページで配信する。もちろん、ツイッターでも随時つぶやき、情報を流すという。
また、「待つこともバルウォークの楽しみの一つ」と井手さん。今年は待ち時間も大いに楽しめるようにと、チンドン屋が開催エリアを練り歩くイベントも実施。「目撃情報をツイートして楽しんで」。
そのほか、今年3月の九州新幹線全線開業を記念して、博多・御供所エリアの12店舗を対象にしたスタンプラリーを開催する。御供所まちづくり協議会とのコラボ企画で、同エリアで2店舗を巡ると「御供所おはぎ」を進呈する。
■新規顧客開拓のチャンス
「参加店舗
にとっては新規顧客を取り込む大きなチャンス」と井手さん。イベント開催の
1日で各店には平均して約200~300人が訪れる。「行ってみたい店を基準に選んでいることもあり、ほぼ新規の客が中心」。当日、使いきれなかったチケットは開催翌日から10日間、金券として使えるフォロー企画「あとバル」(一部店舗のみ)もあり、「リピート率には定評がある」という。
「やはり飲食業界はまだ厳しい」と井手さん。さらに3月11日に発生した東日本大震災の影響で「購買意欲も減退し、さらに冷え込んでいる」という。「開催中止も検討したが、九州が小さくなっても仕方がない。あえてにぎやかに開催しよう」。参加店舗の場所を掲載したガイドブックは入稿直前、「被災地支援」の一文を加えて修正。売り上げの一部は義援金として寄付し、当日も募金を呼び掛けるという。
■地域に根付いたイベントに
「3回目は今年11月に開催を予定し、来年以降は年1回の開催を検討中」という。「福岡の街に定着したイベントを目指したい」。チケットは福岡市観光案内所や参加店舗のほか、遠方からでも気軽に購入できるように今回からホームページでも販売を開始した。「鹿児島など九州各県からも参加してほしい」とJR九州の主要各駅みどりの窓口での販売も行う。
「バルウォーク福岡の開催に合わせて旅行プランを組むほどに地域に根付いたイベントに育てていければ」と意気込みを見せる。
地図を広げて自分たちが住む、慣れた街を歩く――。見知らぬ街をたどたどしく歩く、旅行中の高揚した気分が味わえる「バルウォーク福岡」。ついつい財布がゆるむ旅行気分に任せてちょっと気になっていた店に入るチャンスだ。行きつけの店がもう一軒増えることを期待して。
取材・文/編集部 秋吉真由美