■今泉にできた21世紀の食堂「パロマグリル」

幼少時、タイガーマスクに感銘し、当然のようにプロレスラーになるつもりだったと笑いながら語る「パロマグリル」オーナーの森智範さん。まったく料理などに興味がなかったという森さんが飲食業界へ足を踏み入れるきっかけとなったのは、高校卒業時。進路を決めるとき、大阪の調理師学校に進学するという友人に影響され、「じゃあ俺も」と調理師学校への道を選んだという。「軽い気持ちで（笑）気軽に」と笑い飛ばす。

「堪え性なんでしょうね…」。入社当時20人だった見習いは気付くと森さんを含め、わずか2人になっていた。「全100席は常に満席。オードブル、メーン、デザート、コーヒーなど皿洗いも半端じゃない数。きついですけど、行くとこないし、やるしかないとの思いでした」と話す。酒を飲めないにもかかわらず、辞書を暗記してワインの知識を増やし、売り上げを伸ばすなど、持ち前のセンスで結果を残していった。「接客ではキャバレーの呼び込みのバイトが役に立った（笑）」と森さん。「堪え症だが、軽い気持ちで偶然に導かれるまま、進路を決めてきた」とも。「店を持ちたいというか、社長になりたかった。思いつきで動いてきた。『いい人に出会えた』それだけ」という。調理師学校の先生には続かないと言われたが、続けられた。「いい人に出会えて、気付かされて今がある」とつぶやく。

23歳で他店へ転職。どこでも自分らしさを貫き、意志を曲げず、売り上げを伸ばしていったという。その後、数店で責任あるポストに就き、リピーター増加のため、試行錯誤を繰り返し、経験値を高めていった。

そして33歳、福岡で「パロマグリル」をオープン。大分県日田出身の森さんが自身の店、第1号店の出店場所に福岡を選んだのも「偶然」という。姉夫婦の手伝いで何度が訪れていたという福岡で「勢いでやってみよう」。幸いにも福岡でのカフェブームの時期と重なってか、売り上げは好調。しかし「これまでの、働いて給料をもらうだけの立場とは違う点に苦労した。オーナーという立場は金銭面を含め、管理能力が問われる」とも。工夫を凝らした独自のサービス色を濃く出し、「福岡の人気店」である今の座を射止めた。

■飲食業界を目指す若者へ

カフェブームをはじめとする飲食業界が熱い福岡。そこで、飲食を志す若者に対して、「自身の経験から伝えるものは？」という問いに「俺のとこに来い！」と目を光らせ、一言。その強気な発言は、自身の経験から生まれるものなのだろうか。

　自身を引っ張ってきた原動力の根には「人の役に立ちたい、人に出会いたい」という思いがあると森さん。「街を活性化したい」「人の役に立つことを」「人に喜んでもらうため」という一心でここまで来たという。「飲食で人を幸せにしたい。自分のことを大事に出来ない人は人を幸せにできない。自分が人としてどう成長していくかが重要なのでは」という。「やればできるが、やらなきゃできない。『私は○○ができます』と名乗り出ることができる人こそ、自分の人生を変える、と言いたい」と言い切る。

■「人とともに」－ビジネスモデルの形成

「能力を持っているが眠っている人が多い気がする」と「今」を分析。「『今』は時代が変わろうとしている時。一人でやろうとすると、その人の回りにはやる気のある人たちの渦が出来てくる。良い意味で常識を壊したい」という。考えているのは、自身のスキルを使ってのビジネスモデルの形成。投資家への提案だという。

「おいしいものを提供するだけではもの足りない。営業を通して食育やマナーなど、社会貢献につながれば」と新たな企画を練っている様子。「次の目標は？」と問うと「ひらめきで思いつくまま」とニヤリ。「福岡を『皆で一緒にやっていく』という街にしたい」と意気込む。

「パロマグリル」のコンセプト「食堂」に通じるよう、日々の生活に密着した店作りを目指しているという。「（同店を）福岡という街に根付かせたい。自分の店で出会ったカップルが結婚。老夫婦になり、何年後かには夫婦の一方が亡くなり、最後に食べたのはこの店のオムライスとか…。人とともに生きる店舗作りを目指したい」と目を輝かせた。

笑いを織り交ぜながら話す森さんの言葉には芯があり、一言一言の重みは経験からくる自信そのもののように感じられた。熱い思いを語る反面、自身が惜しくもあきらめたプロレスラーになる夢を愛息子に託していると、はしゃいだり…。いつも「楽しみ」を求めて自分らしくあることが「21世紀の食堂」を動かす原動力になっているようだ。