特集

天神にミニショップ横丁が誕生
若手作家の育成を目的に福岡に広がる「パワコン」とは?

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■地元の若手作家を応援

パワコンアヴェニューは多業種のショップを集めた「ミニショップ横丁」。店舗面積は93坪。エスニック雑貨店やインテリアショップ、ハンドメード雑貨をそろえるショップなど9店舗が出店している。


地元の若手作家や起業家の育成を目的に2004年6月、イオンモール福岡ルクル(糟屋郡粕屋町)に1号店「パワコンストリート」がオープンした。当初はプランニング秀巧社(現・シティ情報ふくおか)が運営していたが、タウン誌「シティ情報ふくおか」の休刊を理由に翌年、エフエム福岡メディアント(清川1)が引き継いでいる。2008年にはイオンモール筑紫野(筑紫野市立明寺)に2号店を出店。さらに、物販に特化した既存店と異なり、より地元アーティストの情報発信やPRできる場にしようと、工房やワークショップなどの教室を設け、より特徴を持たせた業態「パワコンアヴェニュー」としてイムズに3号店となる天神店をオープンした。


出店には保証金や礼金が不要で低コストで商業施設への出店が可能。最小2坪~8坪程度で全店舗とも期間限定、入れ替え制が基本。天神店を含め、今まで出店した店舗は約130店に上る。「気軽に企画書のみで商業施設へ出店できるのが店側にとっては大きい」とパワコンの立ち上げから携わっている同プロジェクトプロデューサーの横内武志さん。出店店舗は募集しているが、独自のセレクト感を持たせるためスタッフが足で探している。「一つのバス停で降りたら良い店がないか、周辺の店はすべて周る」という。


提出書類が企画書のみとはいえ、白紙の企画書が手渡される。「ちょっと意地悪に(笑)」と横内さん。「分からないなりに調べて、想像力を働かせて描き上げてくるのもテスト。具体的に数字も求めるが、レイアウトや販売促進について、熱意を見る」という。


とはいえ、選考に合格すれば商業施設への出店による店の宣伝効果は大きい。接客レベルの向上や経営バランスも学べる。ルクル、筑紫野、イムズとも、1カ所に出店できる期間は最長で2年だ。


ルクル、筑紫野、イムズは客層や売れ筋商品が違う。ルクルや筑紫野の郊外は主婦や家族での来店が多く、イムズは幅広い年齢層が来店する。地域での商売の違いを経験したいとの声もあり、卒業後もさらに成長できる受け皿を増やすことが狙いで筑紫野店、天神店を出店した。「ルクルや筑紫野でももちろん、売れ筋は違う。3カ所で学ぶことによって、どこでも対応できる力が付く」。卒業した店舗の中には、商品が認められ、百貨店で展開するほどに成長した企業や、多店舗展開している店舗、他の大型施設に単独で出店し、成功している店もあるという。



■パワコン出店で成長

多業種のショップ集合体ならではの問題も。周囲の店舗とは仲間だが、ライバルでもある。毎日行う朝礼では、売り上げを順位で発表するシビアな面も。「個人経営の店からは辛いという声も上がるが、売り上げを意識できる店は伸びる」と横内さん。そのほか、接客ナンバーワンを決める「P1グランプリ」など、モチベーションアップにつながる取り組みも積極的に行っているという。


営業規約は細かく、マナーから経営に関する項目まで、通常の商業施設の約2倍に上る量を設けた。「店舗同士が馴れ合いではなく、良い意味で盛り上がっていると自然と来店も増え、売り上げも伸びる」のだという。


身近にライバルがいるという厳しくも心強い環境だが、店側の声は?――「周りの店舗とお互いに刺激しあっていていい関係では」と話すのは、今回イムズへの出店が初のリアル店舗となる「Jasmine Hana B.」デザイナーの山下夏木さん。


Jasmine Hana B.」は福岡県朝倉市秋月に工房を持つ「ティナ・コーポレーション」が手がける。パリコレクションへの出店や百貨店への催事出店、卸を中心に活動。30~40代をコアターゲットに据え、フェルトの技法を使ったハンドメードの商品をそろえる。


「期間限定の百貨店出店で体験した顧客との直接のやり取りから手ごたえを感じ、実店舗出店を検討していたところ、パワコンの紹介記事を見つけ、すぐに応募した」と山下さん。「低リスクでの出店が何よりも魅力的。仲間がいることも単独での経営よりやりがいがある」と話す。


一方、中央区赤坂に本店を持ち、ルクル、筑紫野とパワコンシステムで多店舗展開し、イムズに4号店目を出店した曼谷(ばんこく)雑貨店didi」の加藤園雅(そのが)さんは「パワコンへの参加でずいぶん成長した」と話す。


「商品を手にしやすい位置に並べたり、以前は今振り返ると基本ができておらず、お客様を無視した店作りをしてしまっていた」と加藤さん。「飾り物か商品か分からないとの指摘も受け、細かい点を指導してくれた」という。


「厳しい面もあるが、売り上げが上がったときは認めてくれて、伸び悩むときはどこが原因か一緒に考えてくれる。外部の意見を聞くことは貴重で、心強い。自己満足に陥る店作りからは卒業できたのでは」と話す。次は学んだノウハウを生かして、卒業後に商業施設に単独で出店できるように頑張りたい」という。


■地域活性化ツールとして全国へ

「立ち上げからイムズ店の開店まで、胃カメラ数回飲みましたよ」と笑う横内さん。「中には、運よく成功し、勢いで路面に新店を構えるが失敗。一からやり直したいと戻ってくる経営者や、他店舗との輪を乱すような経営者に悩まされることもある」と明かす。「良い店作りをしたいという思いはどの経営者も同じ。意見がぶつかって怒鳴りあいをしたこともある」。


「数字を伸ばしたい、良い店作りを目指すあまり対立も少なくないが、卒業時には勉強になったと、すごく感謝される」と横内さん。「店としての仕組みができあがり、成長した姿を見ると感無量」とも。


新店と卒業店の入れ替え作業は主に夜間に行う。「夜中の疲れきった時間帯は要注意。別れに涙腺がゆるみますね(笑)」。「最近はプライベートで買い物中、他の施設で卒業店を偶然見つけることも増えた。卒業組が増え、当時下っ端だったスタッフが店長に出世し、活躍している姿を見るとうれしい」。


ルクル、筑紫野、イムズ。地図上でこの3カ所はトライアングルを描き、福岡の商圏はほぼカバーしている。「今後は直営ではなく、九州を飛び出し四国や関西、関東へとパッケージでの全国展開を検討している」と横内さん。「地道に頑張る地元のアーティストや起業家の背中を押し、地元の活性化のきっかけになれば」と目を輝かせる。



取材・文/編集部 秋吉真由美

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