2005年2月、地下鉄七隈線開通により天神地下街は約230メートル延伸した。延伸当日、新たな交通路・七隈線開業とも重なり、天神地下街は注目を集めた。「延伸したことで、七隈線のお客様が地下街を通る機会が出来たことや、大丸・福岡天神とも再び繋がり、天神の各商業施設が結ばれたことで天神全体の回遊性が向上したため通行量は増えた」と、福岡地下街開発・営業部の藤主任は話す。2005年2月~2006年1月の天神地下街全体の売り上げは約190億円で、新設部が出来たことも影響して対前年度比は155.1%と大幅な伸びを示した。内訳は、特に従来の100テナントの売り上げが対前年度比104.4%と好調だった一方、新設部の53テナントの売り上げは目標の92.5%に留まった。「新設部は、九州初出店が25テナントあり、認知されるまで時間がかかる。」と藤さんは加える。
天神地下街(天神1)は2005年7月、30周年を迎える天神地下街年間プロモーションとして広告代理店4社が競合コンペを行った。天神地下街側が出した主な課題は、「地下街を商業施設として再認識させたい」「ご利用のお客様への感謝の気持ちを表現する」「街内でのにぎわい感の創出」「話題性作り」の4点。延伸1周年のプロモーションを受注したのは1周年キャンペーンを「面白い」という切り口で地下街をプロモートするという奇抜な案を提案した博報堂九州支社(下川端2)だった。同社はプレゼン当日、アイデア会議中のダジャレから作った「てんち缶」や、長くなった地下街を強調した「てんちかマップ」のダミーを持参し天神地下街スタッフを笑わせたという。「群を抜いて面白い内容だった。ビジュアルを見て私達が分かりやすいと思うことは、お客様にも分かりやすいはず」と、天神地下街マネジメントセンター・販売企画の八田マネージャーは話す。今回のプロモーションは、天神地下街の1周年キャンペーンを「ニュース」としてマスコミに取り上げてもらうことを戦略の基本に据えているのが特徴。「ニュースを通じた話題性でキャンペーンを広く情報発信することが今回のプロモーションのコンセプト。世の中に注目されるニュースが、『てんち缶』であり、『1,000メートルのファッションショー』であり、『てんちかMAP』。そのニュースが面白ければメディアや口コミで広がっていくと考えた」とプロデューサーの小濱さんの目が光る。「どの商業施設だって目立とうとプロモーションを行っている。その中で勝負するには、突拍子もないイベントが必要だった」と、ディレクター山嵜さんは振り返る。
事実、「1,000mのファッションショー」は、多くのメディアで取り上げられた。「1,000メートル」という長さのファッションショーは、これまで前例が無いらしく「ギネスの記録になるかも」と関係者は言う。ファッションショーは、天神地下街全体をモデルがウォーキングするもの。あらかじめ、ファッションショーへの参加店舗を募り、その店舗からモデルが着用する服を選んだ。天神地下街は、20代後半~30代の女性の中でも「働く女性」をコアターゲットにしており、売り上げの約4割をレディスが占めるという特性がある。「ショーは、商業施設を全て使っているという部分と、天神地下街の特色であるファッションがよくPRできた」と、天神地下街マネジメントセンターの八田さん。また、ショー前日には、翌日のファッションショーのPRも兼ねてタレント梨花さんのトークショーも開催。タレントによるトークショーを天神地下街で開催するのは初めてだった。「ファッションにも通じていて、テレビでの露出も多く、幅広い年齢の女性層に受け容れられるモデル・タレントという視点で梨花さんを選んだ」博報堂九州支社の光井さんは振り返る。
「てんち缶」や「てんちかマップ」にも「ニュース」を持たせようと工夫を凝らした。「抽選会は、通常は景品が目玉になる。でも、当たるのはごく一部。だから景品が当たるまでの過程に楽しさを持たせることに注力した」と山嵜さん。抽選会場にはオリジナル「てんち缶」自販機を設置。いち早く子供が抽選内容に注目し、母親に買い物をねだっていたという。また、「てんち缶」は、「シンプルだけどわかりやすいデザイン」(八田さん)と好評だったほか、約2.7メートルの長さの「てんちかマップ」も「配布し始めた頃は、すぐになくなりそうで、それが心配の1つだった」(天神地下街マネジメントセンターの森さん)ほどの注目を集めた。
天神経済新聞「延伸1周年キャンペーン」関連記事 天神経済新聞「梨花さんのトークショー」関連記事2005年9月~11月、七隈線の各駅周辺の住民などを対象にした調査が実施された。内容は、「交通手段の現状や地下鉄に対する率直な意見」。結果、七隈線の開業で「くらしが良くなった」と感じている人は住民では約4分の1、学生で2分の1。「空港線は以前路面電車が走っていた経路に作ったため、ご利用のお客様にも馴染みやすかったのではないか。しかし、七隈線は、これまでバス路線のみであったところに鉄道が走ることになるので、想像しにくかった。同線は、登場間もないこともあり、今後、開発が進めば沿線住民も親しんでくれるのでは」と、交通局・乗客誘致担当の関岡主査は語る。
ただ、楽観視ばかりしている訳にもいかない。利用客が目標の4割にしか達していないという現状に、危機感を覚えた交通局は2005年度から特に力を入れて様々なプロモーションを始めた。施策の内容は、大きく3つ。「便利で使いやすい切符の導入」「地下鉄を利用し、客に楽しんでもらうイベント」「地域イベントとのタイアップを行うことで住民に親しんでもらい、利用向上を図る」のが狙い。「便利で使いやすい切符」は2005年から特に力を入れ様々なものを出した。昨年の夏休みに発売した小学生を対象の100円で乗り放題の切符「ちかまるきっぷ」を皮切りに、花どんたくなどのイベントとタイアップのセット券や全線乗り放題の「ちかパス」などのほか、今後、「おとなりきっぷ」(100円)の発売も予定している。「ちかパス」の発売開始時期となった今年2月初めには,七隈線開業1周年を記念してセールを行った大丸・福岡天神とタイアップを行い、相乗効果を狙った。大丸で使えるクーポンを「ちかパス」購入者に配布している。今後は、人の動きを調査する「パーソントリップ調査」の結果をもとに、天神南~ウォーターフロント方面や薬院~博多駅へ地下鉄の延伸も計画している。
福岡市交通局 天神経済新聞「内閣府特命担当大臣賞」関連記事 天神経済新聞「和田選手のトークショー?」関連記事 天神経済新聞「和田選手のトークショー?」関連記事 天神経済新聞「ちかパス」関連記事南天神エリアでは今、2つのエリアで大きな開発が進んでいる。1つは、福岡市が手掛けている「渡辺通駅北土地区画整理事業」で、もう1つは、九州電力が手掛ける「渡辺通2丁目開発計画」。「渡辺通駅北土地区画整理事業」は、主に渡辺通1丁目と3丁目をメインとした2.5ヘクタールの地域を区画整理するもの。開発地域の真ん中に大きな道路を通し、いずれはキャナルシティ博多に続く道路にする予定だという。2004年から計画を開始し、現在は事業認可手続き中だ。
一方、「渡辺通2丁目開発」は、九州電力の既存建物の築年数に差があることから、段階的に開発するもの。第一弾は、電気ビル(渡辺通2)が、北ビル(仮称)を建設し、その後も次々と施設を建設する予定だ。同地域は、オフィス街であるが、1階の路面部にはいくつかのテナントを入れ、回遊性を高める仕組みを作る。東京で言えば「丸の内」のイメージだという。ほかにも、周辺では、ロイヤルホストが業態変更を行い「ロイネットホテル」を建設するなど、「じわり」と変化し始めている。
天神経済新聞「渡辺通2丁目開発」関連記事 天神経済新聞「ロイネットホテル」関連記事春物ファッションのPRも兼ねて行われたイベントは、1つの「ニュース」を作り注目を集めた。また、天神地下街は、日常の通路としての側面を持つため周囲の影響を受ける施設。特に地下鉄とは、密接な関係だ。その地下鉄も今年7月に25周年を迎えるにあたり、大きなイベントを仕掛けようと思案中だという。「延伸部分で特に天神南駅に近い部分は、天神南駅をご利用になられるお客様への利便性を考慮し、飲食店やドラックストア、カジュアルな衣料品店など、あったら便利な店を中心にリーシングを行っている。今後、七隈線のご利用のお客様が増えることで、売り上げも伸びるはず」と、福岡地下開発の藤さんは話している。
今年9月10日、天神地下街は30周年を迎える。現在、30周年のイベントに向けて準備中を進めているという。今度は、どのような仕掛けで来街者にその存在感をアピールするのだろうか。「天神地下街」の取り組みは、天神エリアの導線の鍵を握るだけに、今後も目が離せない。