■「都市塾」が釜山との連携の第一歩に
「都市の魅力向上」と「集客力強化」を目的に経済界、民間、行政など29団体が2003年に設立した「ビジターズ・インダストリー推進協議会」。その活動の一環として、民間企業の若手ビジネスマンを巻き込み、まちづくりを担う人材育成や人材ネットワークの構築などを目的とした「ビジターズ・インダストリー都市塾」(以下、都市塾)は発足した。
1年間を活動期間とし、各年のテーマに基づき意見交換を重ねる。最終目標は福岡市長へのプレゼンテーションだ。2005年より天神エリアで開催され、毎年利用者が増えている「朝カフェ」を仕掛けたのは1期生だったりもする。都市塾も今年で4年目を迎えた。例年通り、「福岡の魅力向上」をメーンテーマに4期生も熱い意見交換に奮闘している真最中だが、今年はそこに「釜山との連携」というキーワードが加わった。4年目にして「都市塾」が福岡を飛び出すときがきた――。
4期生は、鉄道会社、NPO法人、メディア、IT企業などに所属する若手ビジネスマン計14人から成る。塾生らは今年10月より月2回、計4回に渡って「福岡市と釜山市が2都市連携を結んだ場合のメリット」や「都市塾が連携の第一歩となるか」、「文化は連携の軸になるか」などさまざまなテーマで意見交換をしてきた。釜山に詳しい人、一度も釜山に行った経験のない人も混ざった手探りの状態で始まったディスカッションだが、12月には、実際に塾生らが渡韓し、釜山側に都市塾と同等に集めてもらったグループとの人材交流会の開催がすでに決定していた。ぼんやりとした枠組みの中、回を重ねていく都市塾会議。渡韓直前では「行く意味」を詰める議論が展開された。
「交流」をテーマにした具体的な提案を持っていくべきか――、それとも都市塾そのものの存在をPRしにいくか――。
「アイデアを100個ぐらいまとめていくべきか」「都市塾の存在を知ってもらうことが先決」などさまざまな意見が生まれたが、「釜山側にも同様のグループを今後、作ってもらうためにもまずは、『都市塾』を宣伝しにいこう」という目的にまとまった。そして、運営事務局も含めて11人が、釜山へ向かった。
■「来るべきことがきた」「チャンスだ」
都市塾メンバーは、釜山国際映画祭などが行われている
PIFF広場がある南浦洞(ナンポドン)や2005年11月に開催されたAPEC首脳会議が行われた「ヌリマルAPECハウス」(海雲台区)、来年3月にスケートリンク、温泉、映画館などが集まった韓国最大級の複合施設の出店が予定されている海雲台の開発途上エリア「センタムシティ」などを視察した後、釜山日報社、釜山大学など、釜山側からは約10人が参加しての意見交換会が釜山BEXCOで行われた。
まずは、都市塾の発足経緯や概要を紹介。言葉の壁の問題から、両都市の参加者は
交互に座っているにもかかわらず、静かなテーブルもあるということで、まずは福岡側、釜山側に分かれ母国語で思う存分意見交換をすることになった。
そこで挙がった意見は、
――福岡側
都市塾のプレゼン後に設けられた質疑応答で、質問が次から次へと挙がったことから「具体案もなく、交流会の開催へ至ったことで興味を持っ
てもらえるのか心配していたが、都市塾は釜山の人に受け入れてもらえた」との意見や、視察で訪れたセンタムシティについて「福岡の魅力は主にショッピングだが、釜山にはそれ以上のものが出来上がりつつあり、今後は買い物目当ての福岡への観光客を見込めるのか」など様々な意見が飛び出した。
――釜山側
「人的交流の前に文化を
知ることが必要(主に子ども・学生)」「市民レベルでの交流は可能なはず」という前向きな意見や「伝統交流やスポーツ交流をしたらいい」との具体案、「まちづくりの積極性が大切」「行政がなかなか支援してくれない」という問題点のほか、「日本人は釜山に親しみを感じてい
るのか?」と、両都市の関係を疑問視する声などさまざまだったが、「(都市塾に関して)新鮮さと驚きを抱いた」「(釜山と福岡の連携体制に関して)来るべきことがきた」「市民の考えを交換する機会がきた。チャンス!!」「釜山側は準備不足で残念」などの意見が挙がり、連携に向けた積極的な姿勢がうかがえるディスカッションが行われていたことが印象的だった。
続いて両都市の参加者
が入り混じって意見交換。「都市塾のやり方は?」と本業を持ちながら活動する点への関心や疑問、「釜山チーム、福岡チームができて、合同でやれる可能性は?」「お互いの情報提供が大事」「福岡も釜山も単独では特にインパクトを持っていない都市。周遊の仕掛け作りがないと中途半端」という意見も。
■釜山と福岡、ともに変化できるのか
塾生として参加した、特派員としてソウル支局に
3年間赴任した経験のある九州朝日放送ラジオ局営業部の石橋聡さんは「巨大なショッピングモールや超高層のアパートなど、街の開発がダイナミック。日本語が通じないもどかしさはあるが、驚きのスピードで変化する釜山には大きなパワーを感じる。世界を見据えて大きな変化を遂げようとする釜山の波に福岡は乗るのかのまれるのか。福岡の特色を打ち出しながら、元気なまち作りに必要なものは何か、個人でできることはないか、模索していきたい」。
同じく塾生のキリンビール九州販売推進部の中井茂文さんは「会話や読みができる、できな
いでは交流度合いにも彼我の差。自分が居る場所、向かう場所も分からない、相手が何を考えているのかも分からない、何を食べているのかも…。それらすべてが恐れにつながり、交流を遠ざける。先ずは、最低限の表示と会話(携帯による無料通訳サービスなどは良いアイデア)が大事では」。
釜山側の参加者、釜山イオコンベックスのキム・ドンスンさんは「都市塾という取り組みは新鮮。本業を持ちながら活動するのは、難しいのではないか」と感想を述べ、「釜山ではニュース番組の最後に福岡のニュースを流れることもあり、釜山市民レベルでの福岡の知名度はけして低くない。市民レベルでも福岡への関心があるようだ。両都市がスポーツ交流などを開催すると、さらに変わってくるはず」とも。
■海外進出の成果は?
福岡側の代表・九州産業大学商学部の千相哲教授によると「(釜山側は)最初は行政主導という形にはなると思うが、都市塾のような団体は作っていきたいという良い反応だった」という。
事務局も手ごたえをつかんだ様子だ。福岡市経済振興局集客交流部・集客企画課の金丸勝也さんは「どういう形になるのかは未定のようだが、こういう反応があるだけでも行った成果があった」。天神エフエム営業企画本部の松本元さんは「具体案を持って行かなければ、良い反応は見られないのではないかという懸念もあったが、この、どうにでも転がる『枠組み(都市塾という取り組み)』のみを持っていく作戦が成功したのでは。都市塾の最大
のテーマ『立場を超えた関係のネットワーク作り』。それがついに
4期目ではハングルの名簿が追加された。それが今回の大きな成果だ」。
天神エフエムの竹石明弘局次長は「釜山でも福岡市と同じような課題があり、また真剣に都市戦略(まちづくり)を考えている人がいるということが体感できた。近い都市という事実を前向きにとらえ、共通の課題を一緒に、またはそれぞれ違う方法で克服し、結果はシェアできるといい。今が新たな一歩を踏み始める時期だ」。
VI都市塾4期生は今後、来年9月ごろを目途に福岡市長へのプレゼンテーションを最終目標に掲げ、ディスカッションを繰り返し、提案をまとめていく。今回出会った釜山側のメンバーらも、都市塾のようなグループを発足させ、来年度中の来福を検討しており、再度交流の場を設けることで連携を密にさせたい意向だ。
今回の渡韓は、記者も都市塾メンバーとして参加。「旅行」というレベルでは出会う機会がなかった釜山のビジネスマンとの交流は非常に新鮮に感じ、観光客との会話で知ることができない「まちづくり」についての意見交換は貴重だった。「来るべきことがきた」という釜山側の意見を耳にしたときは素直に嬉しく「連携して何か生み出したい」との思いはお互いが持っているのだろうと確信できた。都市塾の狙い「海外のネットワーク構築」は形となった。今後は、ディスカッション終了後の夕食やノレバン(カラオケ)交流でできた「出会い」を生かしていかなければ。
「一番近い海外」という縁で出会うこととなった両都市のメンバー。今後、「都市塾」という無限の可能性を、どう広げていくのか――。
取材・文/編集部 秋吉真由美