■「福岡の美人度は?」東西の2都市と比較
これで「福岡は美人が多いんですよー。ちゃんと証明するデータもあります!」と自信持って自慢できるようになるのか!?
ユニークな視点だが、主観的なものであるため、非常に難しい調査だったと話してくれたのは福岡アジア都市研究所の研究員・岩屋京子さん(=写真)。岩屋さんは昨年
4月から同研究所で勤務を開始。当初から、同研究所が発行する情報誌「エフ・ユープラス」内の「福岡らしいもの」をキーワードにさまざまなテーマをデータで証明するコーナー「データで見る福岡市」の執筆を担当している。
「『福岡の女性はキレイな人が多い』という声は以前から良く聞いていたが、それをなんとかデータで出したら面白いなと思って。このコーナーを担当していることだし」。そう思い立った岩屋さんはさっそく調査に乗り出した。
さて、「美」とは非常に厄介なもので、基準があるわけではない。好みなど、個人の主観によるもの。データでどう証明したらいいのだろうか。美容院の激戦区といわれている福岡。悩んだ岩屋さんはまず、サロンの数を洗い出すことにした。対象としたのは、ネイルサロン、エステティックサロン、美容室。そして「ファッション誌では東西のおしゃれ対決の常連都市」(岩屋さん)という横浜市と神戸市を含めた3都市で比較することにした。(図1、図2)
ネイル、エステ、美容室ともに女性10万人あたりの店舗数は、2都市を福岡がすべて上回るという結果に。美容室は横浜の1.6倍。ネイルサロンは約2倍、エステティックサロンにおいては2倍以上という驚きの数値が。道を歩いているとつくづく多いと感じていたが、この数値は予想以上だ。
また、福岡の女性がどんな部分にお金をかけているのか、支出内容も調査。家計調査年報をもとに、コスメ、女性服など美容に関する項目をピックアップして集計。同調査もすべての項目が2都市を上回り、全国平均値よりはるかに高い数値を示した。(図3)
※データはすべて都市情報誌fU+(エフ・ユープラス)第6号から引用
■独立する美容師が多く、サロンが増加
「本当にサロンの数が多くて驚いた」と岩屋さん。この調査結果から見えることとは?「美容師の方の話によると、東京に本店を持つような大型サロンの福岡進出というものではなく、福岡で育った若手の美容師資格取得者が20代後半で独立して店を構える数が圧倒的に多い」(岩屋さん)というのだ。以前から、美容室の激戦区と言われている福岡だが、新規出店は現在も続いており、中央区はもちろん、東区、西区など福岡市内全体を見ても、独立した個人の美容室が増加している傾向にあるという。
商売の街・福岡。その特色は現代の「美」に関する事業にも通じている。また「独立しようという前向きな意欲を持つ人も多い」(岩屋さん)とも。男性より、女性人口が多い背景も手伝って、美容マーケティングが盛り上がりを見せているようだ。
また、同調査に向けて岩屋さんにアドバイスを送ったという同研究所の研究主査・山下永子さんはこう話す。「福岡は起業しやすい街」――。
「神戸、横浜などに比べて生活コストがかからない。その分、好きなことで食べていこうという人が多いのでは」と山下さん。「比較的低コストでの開業が実現できるマンションの一室を改造して店舗とするようなアットホームな小規模の店舗営業をするサロンも多い」(岩屋さん)。「福岡は、良い意味で敷居が低く、独立を目指す人を応援する土地サイズ」(山下さん)。
■土地のサイズが自分磨きの時間を作る
1986年、福岡にはマナーや礼儀をはじめファッション、カラーコーディネート、メイクなど各方面のプロを講師として招き、外見・内面ともトータルで自分磨きを行う「フィニッシングスクールインフィニ」が開校。現在、卒業生は1万人以上にも上るという。「インフィニを始め、内面も外見も磨くスクールなど、ヘアスタイル以外にもマナー、ファッションなど個人で講座を開いている人も多い」(山下さん)とも。スクール系の事業も美容師同様、起業して個人の店を持つ人が多いという。
「これは、美容関係以外にもサービス系全般に言えること。生活に根差した商売が成り立つ街。さらに女性人口が多いという特典付き。女性ターゲットの商売が自動的に成り立つ」(山下さん)。企業の新商品のテストマーケティングにも利用されるコンパクトシティ・福岡の土地サイズも大きな理由の一つのようだ。福岡のビジネスマンの通勤時間は都心に比べると比較的短い。よって、その時間をスクール通いなど自分磨きに没頭できる時間にあてられる福岡の女性は、「より『美人』に近づく可能性が高いはず」と2人。「人気の『茶のしずく石鹸』を開発した悠香(福岡県大野城市)など福岡発のせっけん会社が多いのも納得。『せっけんを泡モコモコにするほど、きれいになれる!!』と思って、朝の忙しい時間を『美』に活用できる、必要以上に長い通勤時間に取られない、ゆとりがある人が多い街」と山下さん。
「自分に手間と時間をかけられる=美人が増える率が高い」。岩屋さんは「他県に住む友人には、キレイな人が多いという意見のほか、おしゃれな人も多いと言われる」とも。調査結果をもとにさまざまな人から集めた意見の中には「道幅が狭いことも理由では」という意見もあったと山下さん。「道が狭い分、すれ違う人同士の顔がはっきり見える。狭い道におしゃれなカフェもあったり、ショップのウィンドウに自分が写ったり。そんなときもおしゃれな私でいたい…そんな心理も働いていると推察できる」(山下さん)という。
3歳の男の子を持つ一児のママでもある岩屋さん。女性が多い街・福岡であっても、育児と仕事の両立ができる環境にあるかというと、そうでもないという。「現状は、出産・育児に関する制度も整っていない。子どもを産んで、再就職するとなると閉鎖的でもある」と山下さん。「育児も落ち着き、働きに出られるタイミングで再就職を探すが難しいとなると、独立の道しかない」と起業する人も多いという。「仕事を続けながら、子育てがしやすい環境にない状態が、結果的に女性の起業へもつながっている可能性はある」とも。
土地のサイズ、生活コスト、女性人口の多さなどさまざまな要因が重なったからこそ、「美人」が次々と生まれているようだ。
■これからは女性の「美」が街を作る
「福岡を女性が美しくなる産業マーケットのメッカに」――。「福岡は目立った観光スポットもなく、特徴も少ない。際立った魅力がないのも事実。だけど、土地サイズを含めて暮らしやすいことは大きな強み。『美』については、今まで打ち出してこなかった部分だが、今後期待できるポイント。京都が歴史の街なら福岡はおしゃれな街。福岡で買い物して、おしゃれを楽しんで、何かウキウキ気分で帰れる。キレイになりたい女の子が期待する都市NO.1にしていきたい」(山下さん)。
福岡の観光スポット「生活体験」を海外にもPR。人の手から生まれるサービスで勝負だ――。
上海には、日本人が経営する美容室があり、マンツーマンの通訳を介したサービスが高価だが人気を博しているという。「日本人のサービスのレベルは高く、現在も韓国をはじめとする旅行者が福岡へ美容院に通う機会も増えつつある」(山下さん)。今後は、天神の各商業施設が利用する英語・韓国語・中国語の「指差し会話帳」を置くサロンや通訳が常駐する美容室も増えてくるかもしれない。
「これらを背景に考えると、福岡がどんなに住みやすい街か。その理由がどんどん出てくる」と山下さん。この調査結果から新たな街づくりへの可能性が期待出来るという。「まさに、福岡の街づくりの切り口は『ビューティー』から。堅いスタイルではない、美容関係の商売に関わる元気な女性も多く参加してくれる『まちづくり』ができるはず」(山下さん)。「女性ならではのアイディアや発想も豊かでパワフル。女性が明るいと街は明るくなる」と2人。
「さまざまな可能性が見えてきた」と、これらのデータが示す可能性の大きさに執筆後改めて気づいたという岩屋さん。「このデータが端を発していろいろな可能性を引き出す存在になれば」と期待しているという。
プロと買い物をともにし、自分に似合うスタイルを見つける講座など、現在、存在する「美」を追求する自分磨きのスクールは多種多様。また20代の若い世代から80代まで、幅広い年齢の女性が「もっとキレイになりたい」「自分を変えたい」と集まっていることも特徴という。女性は、何歳になってもキレイでいたいという思いが強いのだろう。岩屋さんはこんなエピソードも語ってくれた。ある人がこう言ったという。「女性がビジネスで生き残るには『あたま』です」と。頭?いや、能力や知識ではない。「あ」かるく、「た」のしく、「ま」えむき。これが女性に必要な「頭」だと――。
「美」を数値で見事に示したこのデータが切り口となり、新たな福岡の街づくりへの第1歩となるか。
文・写真/編集部 秋吉真由美