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デザインの力で天神をより魅力的な街に
~「デザイニング展」が果たす役割と課題~

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■福岡・天神でもデザインについて考えるイベントを


 5月17日~21日、街中にインテリア、ファッション、フードなど「ライフデザイン」を中心としたエキシビジョンが溢れた。小売店から商業施設、ホテルなど各所で様々なデザイナーの作品などを展示。約120社の企業が参加した。知っている人も、知らない人も天神を歩いていると「展示会をしている」と目を惹いたのではなかろうか。

 デザイニング展を始めようと考えたきっかけは、「東京デザイナーブロック」や「東京デザイナーズウィーク」に福岡のアーティストが出店している現状を見て、「遠くに行かずに福岡で似たようなことができればいいよねという話が飲み会で盛り上がったのがきっかけ」と話すのは井手さん。そして、建築・インテリア関係やプロダクトを手掛ける井手健一郎さんと飲食やインテリア関係を熟知しているデザイナーの馬場雅人さんが口コミで輪を広げていった。2004年9月には、福岡の集客産業を考えるVI推進委員でありアートディレクターでもある山浦克輝さんと2人が出会い、話は具現化した。「初めはマリンメッセなど1つの施設に集約して開催しようかと考えたが、街中がデザインで溢れかえっているほうが面白いという結論に至った。結果、天神の集客力アップにも貢献し、VI推進とも連携をとることができた」と山浦さんはいう。昨年開催した1回目は、4月29日より3日間47会場で開催し、5万人を動員した。

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デザイニング展 

■今年のデザイニング展の特徴は?

 1回目は47会場だったが、2回目は71会場へと規模を拡大。様々な企画のエキシビジョンが開催される中、昨年の同イベントをきっかけに誕生した大川デザイニングプロジェクトも参加した。同プロジェクトは、全国的にも有名な大川家具が低迷している現状をデザインで活性化しようとするもの。井手さんをはじめ様々な分野で活躍するデザイナーがデザインしたものを大川の製造業者が造る「HACOMONO PRODUCTS」として、新作発表会を博多リバレインと岩田屋新館で行なった。

 また、馬場さんが東京に転勤になったことが契機となり、東京からデザイナーを呼ぶことも実現した。昨年から開催しているデザインイベント「Design Tide(デザインタイド)」の実行委員長を務める青木昭夫さんをゲストに東京、ミラノのデザインシーンをデザインタイドの視点で紹介するトークセッションを開催した。公式レセプションパーティーでは、作曲家で作音家、サウンド・コンサルタントも手掛ける畑中正人さんが演奏。楽曲は、福岡、東京、様々な場所で採取した音で制作した楽曲を、ただ東京から作品を持ち込むのではなく福岡の要素を取り入れた作品として披露した。

 このほか、「デザインで社会問題に取り組む」をコンセプトに「レンタサイクル」とグリーンバードが使用するゴミ袋をデザインした企画も登場。「デザインで社会問題に取り組むことは重要。例えば放置自転車を減らすためには、一般の生活者に放置自転車を減らそうという意識が浸透していないから。それには、啓蒙活動が必要だと考えた。今回は、3カ月間放置された自転車で北朝鮮などに運ばれる予定のものを利用したレンタサイクルを行なうことで啓蒙活動を行なった」(井手さん)。また、デザインされたゴミ袋は、街をきれいにする活動を行なう団体「グリーンバード」が使用することで「街をきれいにすることもデザインすることであるということを考える契機になればと考えた」(山浦さん)。

■社会問題から生まれた「レンタサイクル」に取り組む学生達

 レンタサイクルを運営したのは学生団体・コミュニティー研究室。代表の久保さん(九州産業大学4年)は1回目のデザイニング展を見て回ったという。1回目の印象は、「パンフレットを持って街中を歩いている人がいるというだけでワクワクした」(久保さん)と話す。そして、「学生が社会と関わる場所になると考えた。東京などの地域では学生が関わって作るイベントがあったので、福岡でも同じように機会が欲しいと思った。私たち学生は、学校の課題だけだと自己満足で終わってしまいがち。公共の場を利用することで、客からの感想などを確かめてみたかった」と続ける。スタッフの井手さんから、「レンタサイクル」を運営して欲しいと持ちかけられたときは「これは、分散型のコミュニティーでどんなことができるかを考える良い実験の場になる」と考えたという。レンタサイクルでは、デザイニング展のテーマカラーであるピンク色の自転車を貸し出した。そして、各貸し出す拠点を「駅」とし、各所にピンクの看板を立て駅長(スタッフ)の日記のほか、掲示板を設け「どの店が面白い」などの情報交換の場にした。「主催者側になるともっとデザイニング展を知って欲しい、もっと参加して欲しいと思った。また、今回参加したことによって学生が活動する土壌を築けたと思う。自分は大学4年生なので、今後は2年生や3年生につなげていきたい」と久保さんは話す。

■1日中デザイニング展を散策するグループも

 一方、今回のデザイニング展を実際に歩いて回った人は、参加してどのように感じたのだろうか。「Asia Artist」というグループは1日中デザイニング展を散策するという企画を開催した。同グループは、若いクリエイター同士で集まって作られた団体。参加した船津友吾さん(VANTANキャリアスクール福岡校グラフィックデザイン科)、藤元祐貴さん(九州産業大学2年生)、古賀亜矢子さん(九州産業大学3年生)に話を聞いた。実際に回った感想は「まとめて有名な作品や作者を見ることができるのは貴重な体験。店の人ともデザインについて話を出来る機会はめったにないから刺激になった」(藤元さん)、「いつもとは別の分野のデザインを見ることが出来てよかった」(古賀さん)、「今までは、学生の視点でデザインを作っていたと感じた。一線で活躍しているデザイナーの作品を見ることが出来たのは刺激になった」(船津さん)と話す。3人ともクリエイターとして活動する刺激になったようだ。しかし、一方で「デザイニング展は温度差を感じる。」(船津さん)という意見も。そして、「参加型でもっと身近なデザイニング展になって欲しい」(藤元くん、古賀さん)、「学生などももっと積極的に使って欲しい」(船津さん)という意見も挙げられた。

■デザイニング展の今後の展望と課題

 では、主催者側はデザインを通じて、天神の街がどのようになることを望んでいるのだろうか。「福岡は住みやすい土壌がある。デザインは付加価値というか生活を豊かにする手段。だから、例えば西鉄バスの時刻表など身近なデザインが格好いいとか、デザインが溢れる街になるきっかけにデザイニング展がなれば」(井手さん)。「東京だと、非日常と居住空間がはっきりと別れているが、天神はなんでも凝縮されていて、情報が混乱している。これからは天神の情報をしっかり整理していくことが必要。なぜなら、『デザインされている=整理されている』と考えるから。そして整理するには、1人1人が意識して街を変えていかなければならないと思う」(山浦さん)。

 取材を通じて、「デザインとは特別なものではなくもっと身近なもの」であると実感した。「福岡・天神の街にデザインが溢れかえっているということが、街を歩く人にとって面白いはず」と井手さんは話す。デザイニング展は、私達がデザインを深く理解し、デザインについて考える「きっかけ」になる。そして、「きっかけ」は、地場産業を盛り上げ、社会問題を解決するプロジェクトに発展していく。「参加店舗は、デザイニング展に参加したことで、デザイニング展に関係なく今後も面白いイベントを開催していきたいと話す。集客産業の視点から考えると天神が365日魅力的であることが重要なので、これは大きな成果と言える」と山浦さんは手応えを話す。しかし、デザイニング展への参加者はクリエイターなどの業界人が中心で一般にまで深く浸透していないのが現状だ。若手クリエイターは、同展がもっと一般化することを熱望している。

 「1回目、2回目で業界の人々の間には浸透した。しかし、イベントをする側の意識合わせなどまだまだ課題が残る。3回目は、市民の人々にもっとデザインを身近なものに感じてもらえるようなイベントにしたい。そのためには、もっと深く掘り下げた内容のイベントにしていくことが必要」と、同展の課題について山浦さんは話す。6月には、2回目のデザイニング展の反省と第3回目をどうするかについての話し合いが開催される。次回を「深く掘り下げたイベント」にするために連携を深めようという考えだ。

 3回目からは課題をどのように打破するのだろうか。そして、様々な業種のクリエイターが交流して開催される福岡最大級のデザインイベントは今後どのように発展していくのだろうか。天神をより魅力的な街へと変えようとする同展に、今後も注目していきたい。

■デザイニング展のアーカイブ

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