都市再開発事業などを手掛ける東京建物(本社=東京都)が天神、きらめき通りに大型商業施設「VIORO(ヴィオロ)」をオープンした。2003年2月、東京建物は福岡の老舗百貨店である岩田屋グループが福岡市中心部及びその周辺に所有する不動産20物件を一括取得。旧西新岩田屋を「西新エルモール プラリバ」として再生したことを始めとし、各々の物件特性に応じた最適な事業方針を選定し、商業ビル再開発、リノベーション、売却などを行った。そして今回オープンした「VIORO」が最後の開発物件となる。
VIOROの売り場面積は約7,400平方メートルで、地下3階地上8階建て。同施設のコンセプトは「大人のココロを持った女性のための特別な場所『My Private Store』」で、天神エリアで歩行者が最も多いエリアという利点を生かし、「毎日来ることができる」顧客にとって「特別な場所」を目指すという。施設名は、イタリアで「花」を表す「fiore」と、イタリア語で「真実」を表す「vero」を組み合わせた造語。「fiore」には「最良の時」という意味もあり、この施設名称には、「本当の自分に会える、最高の自分になれる」場所であり続けたいという思いと、施設の完成によって天神が完成し、街としての「最良の時」が流れ始めるという意味を込めているという。
建築デザインはショッパーズ・モールマリナタウン(福岡)やTOKYO-BAY・ららぽーと(千葉)など、商業施設の設計に数々の実績があるジョン・ロウさんが手掛けている。デザインキーワードは「Warm&Cool(温かみとクールさのコントラスト)」、「Permanency(=永続的)」、「Transparency(=透明感)」で、「石」と「ガラス」の組み合わせをベースに暖色系の塗装と金属の仕上げを随所に取り入れるなど、シンプルでありながらも上質な外観フォルムを実現した。今回、同館のデザインはカンヌのマピックのコンベンションで「小さいけれども世界中で最も美しい」というタイトルの賞を受賞し、世界的にも評価を受けている。
出店テナントに関しては、ターゲットである大人の女性にふさわしい上質で高感度なファッションと「ここにしかない」特別な商品をセレクトした58店舗が集積。全店舗の7割以上となる41店舗が九州初出店となり、そのうち全国初出店が7店舗、さらに地元発信の店舗も4店出店する。このほか、天神エリアの中心であるきらめき通り交差点という立地を生かし、女性の回遊性が高い、靴・バッグ・アクセサリー等のファッション雑貨の店舗が25店と充実するほか、ファッション以外でも豊かな時間を感じてもらえるように雑貨からインテリアまでライフスタイル提案型の店舗も6店舗展開する。ほかにもきらめき通りを一望できるカフェ(4店)や、最上階テラスダイニングレストラン(3店)などの飲食店舗、ターゲットである「大人の女性」と行動を共にする男性に向けたメンズファッションの店舗も9店舗出店する。
また今回出店した店舗のうち、大名から移転した店舗が7店あるという点も注目すべきところだ。ファッションの中心として注目されていた大名エリアだが、最近では古着屋の出店などが相次ぎ、客の若年化が目立ってきている。このほか、「大名エリアでの買いまわりは疲れる」などといった20代後半~30代の女性の声が集まったため、「ユナイテッドアローズ」や「シップス」、「アメリカンラグシー」などの7店舗が「VIORO」への移転に至ったという。
「VIOROは天神エリアで最後の大型商業施設。VIOROの完成によって天神が一つの完成型を見る」と東京建物九州支店支店長の福居賢悟さんは話す。天神は1日に約100万人が訪れる九州1の集客を誇るエリアだ。また韓国・中国からの観光客も年々増加し、全国的にも元気な街だと言えるだろう。その天神エリアにおける最後の大型商業施設。年間売上目標80億円のこの商業施設の出現により、天神の百貨店や専門店では警戒する声も少なくない。
実際、天神周辺の商業施設は大きく動いた。VIOROに隣接する岩田屋本店は、5億円をかけて2004年に本店を移転開業して以来の大規模リニューアルを行い、婦人服や紳士服、婦人雑貨などのファッションゾーンを中心に新しい商品の品揃えやハイエンドブランドを強化。また、ソラリアプラザが全館の4分の1にあたる33店舗をリニューアルした。天神コアは外壁の改修と上層フロアの再構築に主眼を置いた大規模な改修工事を10年ぶりに行い、外壁は、エントランス部の改修や照明によるライトアップ、壁面部のウィンドウ化や階段室のシースルー化などにより、ファッションビルとしての華やかさの演出を図り、11月にグランドオープンするほか、博多大丸は来年度から3年かけて全館改装を行うという。
しかし同施設が1つの建物として存在するのではなく、天神全体として完成型を見ると同社は考える。同社の考える福岡プロジェクトは、「回遊性やアメニティの充実」「商業拠点としてバランスのとれた発展」「人と自転車が共生するまちづくり」「新たな天神の魅力を高める施設作り」などといった、天神2丁目地区のまちづくりの方向性を継承した開発計画となっている。「回遊性」の向上を図るため、壁面のセットバックや地上広場の確保により公共的空間を創出するほか、地上と地下の歩行者ネットワークの強化を図るため、地上広場ときらめき地下通路に連携した地下通路を設置。また、自転車の共生のため、地下2、3階に約300台の自転車及び自動二輪車を収容可能な大型駐輪・駐車スペースを確保するなど、地区計画を定めながら一体感を持って開発することを目指した。
また、他の百貨店や商業施設の多くが営業時間は10時~20時であるのに対し、同施設の営業時間は11時~21時。メインターゲットが「天神で働く女性」ということから、「ターゲットの人達が仕事をしている10時~11時の1時間より、仕事が終わった後の20時~21時の1時間のほうが重要」という考えのほか、「他の場所で買い物をし、他のお店が閉店した後に最後に来てもらえるから」(福居さん)などという考えもあるようだ。
ほかにも、北に新天町、南に警固公園、そして岩田屋・ソラリアプラザ・VIOROが隣接するきらめき通り交差点では、この通りを歩行者天国にするイベントや、12月にはクリスマス商戦に向けて、周辺の施設と連携してイルミネーションを装飾する計画などが持ち上がっているという。
今後、天神エリアはどのように動いていくのだろうか。VIOROのオープンをきっかけとし、天神という街全体での成長を期待する声が上がる一方、郊外の大型ショッピングセンターの躍進や5年後の新博多駅ビルへの「阪急百貨店」進出などの動きによって、天神の今後の発展を懸念する声もある。
「天神VS郊外 福岡都市圏生活者のショッピング動向調査レポート」(ジーコム生活行動研究所調べ)によると、天神は「おしゃれ」という点では郊外のショッピングセンターより勝っているが、「人が多すぎて疲れる」、「駐車場が足りない」などといった不満も多く、「経済的」「気楽」などといった点ではショッピングセンターよりも劣っている。また新博多駅ビルにオープン予定の「阪急百貨店」も九州初進出ということもあり、消費者の期待は大きいだろう。
天神エリアの商業の魅力向上のため、主要商業施設・私鉄・商店街・マスコミと福岡市による官民一体となって設立されたWe Love 天神協議会は、天神に休憩スポットを増やすためのオープンカフェの設置や歩行者天国やクリスマスイベントの共同企画、駐車場・駐輪場問題の解決や交通渋滞の緩和のための施策など、様々な天神エリアの問題解決に取り組んでいる。同協議会は2006年4月に設立されたばかりだが、このような活動は天神の今後の発展に大きく関わってくるのではないだろうか。それぞれの商業施設や福岡市が協力しあい、官民一体となり天神エリアを盛り上げていく。そんな天神の今後の動向から目が離せない。