「名前は?」――来店客に聞かれ「高良千穂」と紙に書く。「たからさんと読むんですか?」。「こうらです」。「じゃあ、たからさんにしときー。縁起が良いから」。こんなやり取りを交わし、仲間うちを中心に「たからさん」という愛称が根付いていく。「本名は『こうら』で芸名が『たから』。いや、源氏名かな(笑)」と笑わせてくれる。
天神地下街のフリーペーパーの店舗紹介ページにも「宝店長がお待ちしてます!」と紹介される。買い物した店頭でそのフリーペーパーを何気なく手にしたある若い女性は、そのページを見て「宝くじでも買おうかな…」と購入。なんとその宝くじが1千万の高額当選を果たしてしまったという。その後、高良店長は地元のテレビ番組にも出演。同番組の放送をきっかけに九州じゅうから高良店長を目指して来店する客が増え始める。意外にも「テレビに出させていただいたのはこれ一度きり」(高良店長)という同番組の出演と口コミで「高良伝説」は広がっていく。
この一度きりの出演となったテレビ番組を見て、ある年配の女性は思った。「なんだか当たりそう」――。この女性には長年連れ添ったご主人がいた。そのご主人は若いころから宝くじが好きで
50年近く、毎回宝くじを購入していたらしい。でも、ただの一度も当選の楽しみを知らないうちに、この世を去ってしまった。その女性はその時感じた直感を信じて、初めて宝くじを10枚だけ同店で買う。すると、なんと1万300円が当たった。「おじいちゃんに悪いから仏壇に供えてます」と大喜びして報告に来たという。年金暮らしで余裕が無いけど、感謝の気持ちを伝えたいと、どんぐりと着物の端切れで作った手作りのお香をプレゼントしてくれたという。「店頭にも飾っていたら、それを見てまた女性が喜んでくれた」(高良店長)。
「『なんで当たらないの?』などと聞かれて困ることももちろんある。でも人との出会いが本当に楽しい」と続ける。
毎年恒例のサマージャンボ、年末ジャンボ、スクラッチなど約10種類以上の宝くじを取り扱う。同店のスタッフは、高良店長を含め3人。「現金を扱う仕事なので常に頭を使う。3人でボケちゃおれんね!」(高良店長)というのが合言葉だとか。「小宮さん、中野さんという素敵な仲間に囲まれて頑張れる。がっちり信頼関係もあって楽しくて仕方がない」とも。
来店客の年齢層は幅広く、「80歳を過ぎたおじいちゃん、おばあちゃんが本当に楽しみに来られる。『当たらなかったけど、今度は当ててね』と言いながら」。鹿児島や沖縄などの遠方からも来られるという。「ほら!この方じゃない?当たりさんって!!」と「たから」という愛称がいつの間にか「当たり」へ変貌と遂げて覚えられたりしていたこともあるとか…。「なんでもうれしいです。来ていただけたら(笑)」。また、「常連様もいらっしゃいますが、接客で話すことといえば、宝くじの話だけではなく、庭にトマトができただの、たくさん採れただの…(笑)。苦ウリを大量に持ってきてくれた方もいました」(高良店長)と夢を運ぶ宝くじは人の「縁」をも運んでいるようだ。
「こうら」店長が「たから」店長となって3年。同店から出た高額当選金額は総額8億円以上にも上るという。当たりやすい売り場にするために心がけていることはあるのだろうか――。「全然!お客様自身が風水などを勉強されて、この色が良い、清めの塩を置きなさいとか教えてくれて、さらに物を持ってきてくれます」と高良店長。唯一、スタッフ全員で気をつけていることは「明るい笑顔!」と一言。「(同店の雰囲気が)明るい感じで当たりそうと言われているが、私たちスタッフもお客様との出会いがあるから逆に楽しませてもらっている状態。お互いに良い関係です」という。
■幸運の女神自身の最高当選額は3,000円ポッキリ…(泣)
「あるお客様が『ロト6』のおまかせ(機械が自動的に数字を選択してくれるシステム)でなんと高額当選!それから私もせっせと機械におまかせしてますが、全く…(泣)。最高で3,000円です。欲を出したらだめなのね~~(笑)」。スタッフは「当たるの分かるんでしょ?」と良く聞かれるとか。「分かればさっさと当てて、勤めてません(笑)」と笑いを誘う。「宝くじを毎日扱っているのに3人ともまったく…かすりもしません(笑)。私たちが当たらない分、少しでもお客様に運が回ってくれればと思って頑張ってます」。
「仕事は生きがいです。楽しい」――高良店長を目当てに来られる方も多く、ジャンボの発売時期には連勤も。休みの日は、掃除、洗濯、庭の
草むしり…そしてフルーツケーキやマドレーヌなど趣味のお菓子作りに没頭するほか、
3日間の連休には日本各地へ旅行して楽しむとか。
最近は韓国や中国からの観光客の来店も多いという。「その場で当たりが分かるスクラッチが人気。カタコトの言葉とジャスチャーでのやり取りも楽しい。つい最近、2,000円当てた中国の方はよほどお喜びだったようで写真撮って大騒ぎ。こっちまでうれしくなります」という。
「たからさんにしときー、縁起が良いから」――すべてはこの来店客の一言から。「男性のお客様でした。その方のおかげですね。『たから』という愛称が運ぶ縁に感謝です。当たりは明るい笑顔があるところから生まれると言われています。私も人の出会いを楽しんで、とことん笑顔でいます」。
「幸運の女神」――「笑顔の女神」と呼んでもいいかもしれない。初めて会ったにもかかわらず、人の心にスッと入り込んでくるような笑顔の持ち主。そんな人の回りには必ず、「楽しさ」や「幸せ」、そして「素敵な縁」が集まってくる。億万長者を狙う人、ドキドキが欲しい人、ストレス社会にやられた、癒しが欲しい人…。地下に潜伏している高良店長をはじめとする、笑顔の女神たちのパワーをもらいに、ぜひ。
文・写真/編集部 秋吉真由美