特集

「最大の敵で、無二の友よ!」
天神で戦う商業ビル「ソラリアプラザ」と「イムズ」―20年の裏側

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■祝!ソラリアプラザ&イムズ20周年

――20周年おめでとうございます。改めて20年を振り返っていかがですか?
ソラリアプラザ・高浜さん(以下、高)――あっというま。かかわって5年ですが、本当にあっというまでした。毎日が新しい。毎日、お客様も違うし、テナントさんの意見も違うし。毎日落ち着かないんですけどね(笑)。入社以前もお客さんとして通っていたので、20周年の機会をこんなに身近に感じられるようになる立場にいるとは思いませんでした。天神も変わりつつ、自分も変わりつつ…。今後10年、20年とお客様の夢を壊さないように、ということが今の目標でもあり、プレッシャーでもあります。


イムズ・塚本さん(以下、塚)――20年前といえば、福岡は日本の中でも4~5番目に大きな都市なのに意外と商業施設が少ない都市だったんです。そこでイムズ、ソラリアという新たな商業施設の誕生でより「都会っぽく」なったと思います。消費者の選択の幅が広がったと思います。街にも大きな刺激になって…。当時は画期的な時代だったと思いますね。イムズも時代とともに成長できた。いろんな方のアドバイス、出会いがあったからこそ、二十歳になれたと。結局はやはり「人のつながり」なんです。


●ソラリアプラザ●
ソラリアプラザは地下3階、地上17階。飲食、アパレルのほか、7階には映画館「ソラリアシネマ」、10階には「フィットネスクラブ ソラリアスポーツ」、11階~17階は「ソラリア西鉄ホテル」を併設している。テナント1階のイベントスペース「ゼファ」では、ほぼ毎週末、イベントが開催されており、多くの買い物客でにぎわいを見せている。テナント数は133店。20年の来館者総数は約3億2,000万人。コアターゲットは、10代~20代。


最近、ソラリアプラザは利用客と一緒に作り上げるイベントが目立つ。同館1階のイベントスペース「ゼファ」では一昨年より、クリスマス時期に、公募で選ばれたカップルの公開ウエディングを実施。一昨年は、応募した7組のカップルの中から選ばれた、結婚10年目にして式を挙げていないという2人。昨年は、応募総数12組の中から選ばれたゴスペル教室で出会ったという2人がそれぞれ、天神の中心で通りがかりの買い物客からの祝福を受けながら愛を誓った。


また、同館は昨年のクリスマスには「願い事」を一般募集。見事選ばれた1人の願い事を実際に叶えるという企画も実施。現在、当選者の願い事実現プロジェクトは進行中だという。


――利用客の1人1人にスポットが当たるような企画が多いですね。
高――そうですね。お客様もビルを身近に感じられると思うし、私たちも直接意見交換することができ、生の声を聞くことができる。10年後、20年後も好きでいてくれるんじゃないかなと思います。


――嬉しいですよね。いち消費者にここまで尽くしてくれるビル。その方にとっては一番好きなビルになるかと。
高――全員に充てたものってたくさんあると思うんです。でも、ただ一人、そのたった一人の方に対してというのは少ない。結果、その方が本当にソラリアを好きになってくれて、さらにその思い出を皆で分け合っていただければ。1回目に式を挙げたお2人は、昨年の公開ウエディングも見に来ていただいていたようです。
塚――そうやってファンが根付いていくんですよね…。実は、イムズも公開ウエディングしているんですよ。地下2階のカーブエスカレーターを停止して、上から新郎新婦が下りて来るっていう。
高――すごーい!!(目がキラキラ)
塚――10数年前ですが。また企画してもいいかなって。
高――ソラリアもクリスマス時期だけでなく、定期的にしたいねという案もあり、検討しています。


●イムズ●
イムズは地下4階、地上14階。「情報発信基地」をコンセプトとし、飲食、アパレルのみならず、カルチャーなどジャンルにとんだテナントが充実。地下2階から地上8階までの吹き抜けが特徴で、この吹き抜けを生かした、定期的に変わる空間演出が人気を集めている。テナント数は133店。来館者総数は約2億7,000万人。コアターゲットは20代後半~30代。


イムズは、商業施設や百貨店の年中無休営業がほぼ常識となリつつある今でも、ほぼ毎月、建物の点検や地下2階の空間演出の設営のために定期的に休館日を設けている。


塚――今どき、毎月きちんと休館日を設けている商業ビルは珍しいでしょ(笑)。でも売り場からは意外に支持されています。確実にこれだけきちんと休みがあれば、自分の時間も持てるし、店舗の本社からはその休みを利用して研修もできる、と。もちろん、売り上げが上がらないという意見もありますが。働く側のことも考えているんです。



■両ビルの個性あふれる20周年企画、大阪名物のあのヒトも!?

両ビルとも、20年の節目の年として、大々的な企画を展開している。イムズは3月18日、20周年を記念したパーティー「IMS 20th ANNIVERSARY PARTY」を営業時間を延長して開催した。ウエルカムドリンクを振る舞い、ファッションショー、メークやマッサージなどの特設コーナーも展開。また、昨年7月に閉店した大阪・道頓堀の料理店「大阪名物くいだおれ」(大阪市中央区)の名物人形「くいだおれ太郎」が来館。パーティーのオープニングに登場したほか、記念撮影会なども行い、会場を大いに盛り上げた。


塚――実は、くいだおれ太郎君の来館も賛否両論あったんですよ。イムズらしくないとか、イムズだからできるとか…。(リニューアルした)12階フロアの雰囲気に合うのか、とか。確かに12階は雰囲気があって、オシャレなイメージかもしれないけど、リニューアルした空間と場所を知ってもらうには、太郎君くらいのインパクトが大事なんです。イメージばかりを追及しても実益にならない。イメージよりも何よりも、そこを優先しました。


また、企画から約1年半をかけて、20周年を記念した書籍「イムズのきもち」も3月に出版。毎年、館内に設営するクリスマスツリーをプロデュースしているドリームズ・カム・トゥルーをはじめ、ケミストリー、東京スカパラダイスオーケストラ、博多華丸・大吉さんら、同館とかかわりの深いミュージシャンやクリエーター20人が寄せたお祝いメッセージを掲載したほか、ショップが誕生するまでの仕組み、イムズを舞台にした実話を一般募集したエッセー、同館の豆知識などを盛り込み、「イムズのすべてがわかる」(塚本さん)内容に仕上げた。「素人さんなのに文章が上手でクオリティーが高い」と塚本さんも絶賛のエッセーは、温かい作品ばかり。「明らかな誤字脱字以外は、一切校正入れてません!」という。


ソラリアは20周年を機に、ビルコンセプトを「Fashion is me」から「Tenjin Style」へリニューアル。ファッション以外にも目を向け、「天神で働く女性のライフスタイルのトータルサポート」を目指すという。また、イメージビジュアルは、「元気になれるようなカラフルな色の作品が、20年という節目でイメージをガラッと変えるにはぴったりの方」(高浜さん)という、女性に圧倒的な支持を受ける、人気フォトグラファーの蜷川実花さんに依頼。蜷川さんは、ショッピングセンターのプロモーションを手がけるのは九州初という。


また、毎年実施している購入額の1部をペイバックする販促キャンペーンでは、20周年に合わせて、同館初の20%のペイバックを実現し、話題を集めた。


このような両ビル独自の企画のほか、合同で全国的にも珍しい取り組みも実施した。



■天神で戦ってきた「最大の敵で、無二の友よ!」

塚――お互い20周年。いろんな方とお会いするたびに何か一緒にできたら良いねと話していたんです。ソラリアさんからお互いの壁面を使って何かできないだろうかと提案を受けて、この「エール交換」企画が決まりました。


2月末から3月中旬まで、イムズ壁面にはソラリアに向けた「ソラリア!!20年間最大の敵であり、無二の友よ。これからもお互いに力の限り戦うことをこの理想郷(ユートピア)、天神に誓いましょう。」――ソラリアターミナルビル壁面には、イムズへ向けた「イムズ!!私たちは、天神という名の聖域で20年も戦ってきた好敵手なのね。」というお互いを称え合うメッセージを掲げた。


「雑談から生まれた企画」(塚本さん)。掲げたメッセージは、上がってきた数あるコピー案の中から一緒に選んだという。「『天神』がアピールできるから、やりたいと思った」(同)。


また、昨年のクリスマスより、ソラリアが単独で実施している「チャリティー抽選会」も今月より、両ビルのコラボ企画として合同で実施している。館内の利用金額に応じて参加できる抽選会でハズレが出ると、「参加賞」として「お菓子」か「チャリティー」のどちらかが選択できるというもの。抽選で外れて、チャリティーを選択すると緑のボールが渡される。そのボールをチャリティーボックスに入れると1個につき5円が西日本新聞環境プロジェクト「エコ・スイッチ九州」に寄付され、環境保全活動などに充てられる仕組みだ。昨年のソラリアでは、チャリティーボール選択により集まった額が、開始2週間で目標額の10万円を大幅に上回るという予想以上の好調ぶりだった。


今年は、抽選会場に「ソラリア×イムズ」の文字が踊っている。「両ビルで盛り上げられるような取り組みは今後も続けたい。最終的には、こういった取り組みは天神全体に普及するようにしていきたい」(2人)という。



■キアヌがお忍びでイムズに!?

――この仕事で良かったと思った出来事は?
塚――なんてったっても~、キアヌ・リーブスに会えたこと!!


ライブ活動で福岡を訪れたキアヌさんが、当時イムズ10階・11階にあったフィットネスジムにお忍びで来店したという。普通に客用エレベーターを使って正面玄関から入ったとか。


塚――でも店内でやはり気づいた人がいて、帰りは従業員エレベーターを使ってお帰りになりました。自然と手を振ってしまいました…。大きい声では言えないけど、こういうのは役得かなーって。この仕事をしていたおかげと感謝しますね。あと、ジャッキー・チェンさんが黄色いスーツで館内をウロウロしてたとか(笑)。そのほかにも、館内ステージでは「ゆず」や「ダウンタウン」など、ブレイク前にご出演いただいた方も多いんですよ。


高――ソラリアでは、1階のタリーズコーヒーをボビー・バレンタイン監督が良く利用されている姿もよく見かけます。しかも、タリーズコーヒーの開店第1号のお客様はバレンタイン監督だったらしいです。また、私は「スラムダンク」などの漫画家・井上雄彦さんが大好きなんですけど、壁面で大型広告を展開することになったときは、この仕事をしていて良かったー!!と思いましたね。お会いすることはなかったですが、本人が企画の打ち合わせをかねて、こっそり来店されてるんです。


塚――けどそんな仕事ばかりじゃないよね。
高――うんうん(うなずく)。
塚――大変なことの方が多い。基本的には、ビル管理会社でイベンターでもなんでもないから。ミーハーなビルと思ってもらっちゃ困る!(笑)イベント開催時には朝の5時まで仕込みに時間がかかることだってあるんですよ。老体にムチ打って頑張って…(笑)
高――やりがいがありますけど、本当に大変なことの方が多いですね。


■それぞれの「ビル格」、個性を生かして

――天神に位置する商業ビルの広報として今後、天神はどんな街になってほしい?
塚――天神ブランドが確立した、いつでも注目したい街になってほしい。天神に行く前に「ワクワク」、帰るときには「良かったー」と思えるような。でないと、郊外店との差別化が難しいと思います。あくまでも「天神=憧れのブランド」でいたいですね。
高――ディズニーランドのような場所になってほしい。いつ行っても新しく、毎回違う楽しみがある場所に。


――今後20年、どんなビルに?
高――「天神で働く女性のライフスタイルのトータルサポート」ができるように。映画館、フィットネスクラブを持つ強みを生かして、このテーマをビル全体で展開していきたい。毎日がてんやわんやですけど(笑)。プライベートでどこかの商業施設に入っても、ここ参考にしたいなーとか会社を離れても頭から離れないほどです(笑)。そうやって、少しでも応えていければ。


塚――同じブランドの同じ商品でもイムズで買うことでより価値が上がるような。こんな付加価値を目指したい。私たちは「ビル格」って呼んでるんですけど、ビルにも「人格」がある、と。この「ビル格」をちゃんと維持していかないと、他のビルとの差別化ができないと思うんです。そして、うちは情報発信基地ですから!生意気だけど、他とは違ったいろんな側面を持ったビルを目指しています。真ん中がぽかんと空いて、売り場面積は少ない。そこに店が入ればそれだけ売り上げは上がるわけだから。吹き抜けは、うちの大きな特徴。一番参考にしているのは、お客様の生活スタイル。生活スタイルを読み取る力がないとだめ。でも、それが一番難しい…(笑)。本当に難しい。読み取ってそれが正しいとも限らないし。でもこんな風に皆さんと話したり、年1回のアンケート、グループインタビューなどで感じ取っていくしかないんです。「OLさん疲れているみたいよー」とか「欲求不満みたいよー」とか。「それだったら例えば、リラックス系のイベントを組めばいいのかなー」とか…。ただの押し売りになるので、与えるほうと受けるほうの両方の立場を分かっていないとダメですね。お客様の視点も持って、何を望まれているのかを分からないと成り立ちません。


高――ふぇ~(横で感心)
塚――優等生的な答えになってしまった…(笑)。これが20年のキャリアよ!(笑)


2人――20周年を機にこうやって近くなれたので、これからもお互いに、ライバルとも言われるけど、天神の仲間として、天神自体を盛り上げて相乗効果を狙いたいですね。




昨年、ソラリアが初めて実施し、今年は2館でのコラボも実現した、チャリティー抽選会。私は取材中、とても幸せそうな、あるカップルに出会った。抽選券を3枚握り締めた彼。抽選機をガラガラガラ…。残念ながら、3回ともハズレ。「参加賞(キャンディー1個)かチャリティーボールかお選びくださいませ~」――彼の選択は、1つはキャンディー、あと2つは緑のボール。そのボールを横のチャリティーボックスに入れて彼女と目を合わせる。横の彼女は「ニコッ」。手は親指を立てたグーサイン。


――「GOOD CHOICE!」


彼女の心の中を代弁するとこんな感じだろうか。今日もイムズ、ソラリアを舞台にこんな、ほんわかした温かい人のつながりが生まれているはず…。





文・写真/編集部 秋吉真由美

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