■成長する「演劇フェスティバル」
開催当初から事務局を務めるNPO法人アートマネージメントセンター福岡代表理事の糸山裕子さんは、自身も学生時代に演劇を経験。ある日見に行った舞台が、あまりの「身内受け」にウンザリしたことが同法人を設立したきっかけだという。
「たいして面白くないのに客が笑う。こんな馴れ合いじゃ、福岡の演劇のレベルは上がらない。このままだと私がおばあちゃんになった時、良い演劇が見られなくなる」と危機感を覚えたという糸山さん。設立後、学生時代の演劇経験を活かして作品の企画・制作を手掛け、時には厳しく福岡の若手劇作家らを見守っている。
「現在、福岡には50~60の劇団が存在している」と糸山さん。同フェスティバルのおかげで、国内外で活動している劇団の作品が福岡で気軽に見られるようになったことから、「福岡の劇団には良い刺激となり、それぞれの個性を生かせるようになってきたようだ」と話す。「JR博多シティ開業後には、JR九州ホールや大博多ホールも会場に加わるなど、天神から福岡のイベントへと成長。地元の劇団も横のつながりが圧倒的に増えた」と振り返る。
演劇の枠にとらわれず、昨年からコンテンポラリーダンスの作品なども増やし、「舞台芸術」のフェスティバルとして定着しつつある。成長過程にある地元劇団を応援しようと、初回から設けた公募枠への応募も最近は大幅に増えたという。さらに、「ライバルを増やしてレベルを上げてほしい」と、今年は地域限定の応募条件を外し、全国からの応募ができるように間口を広げた。
■個性豊かな10作品
今年は
4月6日より、西鉄ホール(福岡市中央区天神2)、イムズホール(天神1)、大博多ホール(博多区博多駅前2)、JR九州ホール(博多駅中央街)の4会場で開催される。
福岡を拠点に活動している劇団「非・売れ線系ビーナス」は、ラジオドラマとして
NHK佐賀局で制作された作品「些細なうた」を上演。3年前に亡くなった佐賀の歌人・笹井宏之さんの短歌をモチーフにした作品で、ネット上に配信された「笹音」という歌人の短歌と出会う、引きこもり生活の30歳の男性が主人公。
公募枠で選ばれた宮崎の劇団「んまつーポス」。逆から読むと「スポーツマン」というネーミングさながら「力強いパフォーマンスが面白い」と糸山さん。「会場の中心に子どもを囲んで設けた舞台で、子どもから大人まで楽しめる作品」という。
福岡の劇団「14+」は、韓国の劇団「文化創作集団 Gongter_DA(ゴントーダ)」と同フェスティバル初の日韓共同制作に挑む。「韓国側からの依頼で実現した日韓コラボ作品。韓国の作品を日本の演出家がどうとらえて表現するかに注目」。
新人劇作
家の登竜門とされる「岸田國士戯曲賞(きしだくにおぎきょくしょう)」を受賞し、映画「横道世之介」などの脚本を手掛ける作家・前田司郎さんが作・演出を手掛
ける劇団「五反田団」。今回上演する作品「迷子になるわ」は、「こんな演劇があったのかと思わせる作品。前田さんは、人間を見る視点が面白い」と糸山さん。
そのほか、19人のキャストが出演する「万能グローブガラパゴスダイナモス」や、福岡県出身の俳優・入江雅人さんによる「入江雅人グレート一人芝居」など計10作品がそろった。
■「演劇」を身近に
次世代を担う演出家が一つの戯曲をそれぞれに演出する企画創作コンペティションや、テレビ西日本の情報番組「タマリバ」で募集した60歳以上のメンバーが出演する、俳優・西村雅彦さんのプロデュース作品など、ユニークな関連企画も充実した。
「やっぱり演劇が好きなんですよね。演劇の力強さを無くしたくない」と糸山さん。「ただ続けるだけじゃダメだが、続けることで生まれることもある。今は、一部の演劇好きの人のためのフェスティバルですが、もっと身近なものにしていきたい」と話す。
「映画を年間5本見るなら、1本を演劇にして」と糸山さん。「舞台芸術は間口が広いもの。一人ひとりに合う作品が必ずある。演劇と構えずに、買い物のついでに見に行く感覚で来ていただければ」。
取材・文/編集部 秋吉真由美
「んまつーポス」photo by Ayano So
「14+」撮影:南一康徳 「土地/戯曲」より
「非・売れ線系ビーナス」第15回公演『hedeの真似して死ぬなんて』@湾岸劇場博多扇貝 2011年1月