春吉2丁目に位置する酒販店「友添本店」。店内に入ると2階から大きな笑い声が聞こえてきた。同店の2階は晴好実行委員会の会議室代わりとして使用されている。コーヒー片手にアットホームな雰囲気で、打ち合わせというより「雑談」が進んでいる様子。ここから、イベント「晴好夜市」開催や春吉オリジナルの酒「晴好の風」の製造など、地域の取り組みとしては十分すぎるほど際立った形を残し、春吉ブランドの価値を高める企画が生まれた。
「街おこしがしたい」-という思いのもと、春吉エリアに店を構える店主ら7~8人が中心となって呼びかけが始まった。3年半前に実行委員会を結成。結成当初は「広めるために『形』として何か残そう」と、紙媒体も検討したが、コストの問題もあり、ホームページを作ることに決定した。2004年10月に開設したホームページ「晴好」。ホームページの名称「晴好」は、明治のころにこの地域で使用されていた表現。口コミや店同士のつながりもあって、協賛店は開設当初の40件から現在は、131件もの登録数に上っている。地域のホームページとしては多く、月に約20,000アクセスを記録。内容は、実行委員会の活動報告や「晴好ニューフェイス」と題したニューオープンの店の紹介コーナーなど、春吉の紹介はもちろん、マップ、イベント情報、春吉の住民の笑顔を集めたコーナーなどコンテンツは多数。実行委員メンバーで本業はプロカメラマンの比田勝大直さんが撮影した写真を使用、ライティングもプロが行っているためクオリティーが高い。店舗紹介も協賛店のみを取り扱うのではなく、エリアに存在する、すべての店舗を同様に紹介することで「春吉」の今を伝えようとしている。すべての店舗を紹介することについて、協賛店からの苦情などは一切無いという。同委員会の友添健二さんは「そういうところが不思議だが、理解してくれていることが春吉らしい」と話している。
毎年の恒例行事「晴好夜市」。開催は今年で4回目。「インターネットを見ることができる環境の人以外も楽しんでほしい。バーチャルの世界からリアルに」とネット以外でも皆で楽しもうと企画された。今年も5月13日、サンセルコ広場(福岡市中央区渡辺通1)で行われ、約2,000人の来場を記録した。ホームページ協賛店による飲食の物販や、特設ステージではお笑いライブ、有志らのライブステージなどで盛り上がりを見せた。
「春吉自慢を作ろう」-この一言から始まった春吉ブランド。第1弾は米作りから手がけた特別純米酒「晴好の風」。春吉エリアの小学生、店主ら約90人でバスを貸し切り、天吹酒造(佐賀県三養基郡)へ出発、田植えや稲刈りなどを地域住民自らの手で作り上げた。今年も6月24日に田植えを実施。今年は地域関係なく参加募集を行い、地域外の広がりも呼びかけた。
そのほか、福岡で活躍する若いアーティストの絵や立体作品などを地域の各ショップの店頭に飾る「アートサバイバル」を実施し、30~40件のショップが協力した。そのほか、「『春吉』の歌を歌いたい」と春吉3丁目にあるライブバー「なべ家」のなべさんが「春吉ON MY MIND」という歌を制作、住民がコーラスで参加し、イベントでは皆で合唱するなど「街の歌」として定着しつつあるという。また、各ショップで春吉のネーミングをつけた商品を販売するなど「街おこし」の活動は多岐に渡っている。
「意思を持って変わらない」。「近年の春吉の変化をどう感じるか」と問うと、比田勝さんからこんな答えが返ってきた。「若者は親富孝通りから急激に離れ、見事に大名・今泉へ流れている。大名のように時代に順応していくことも大事だが、逆に変化が激しすぎて『大名』自体の個性が無くなってきている」とも。「春吉は『個性』がある。変えたくないのではなく、変えない意識の方が強い」と話す。「春吉は他地域に店を構えるオーナーが2店舗目、あるいは3店舗目として出店する傾向の地域ではなく、『春吉を目指して、出店するなら春吉に』というこの場所にこだわりも持って出店する店舗がほとんど。だからこそ、フットワークが軽く、1オーナーの権限で自由な発想の企画が次から次へと形になっていく」とも。また「若者がいるから出店、離れていくから街を出るという利用の仕方は嫌。春吉をそんな街にしたくない。良い意味で敷居を高くして個性を持ち続けたい。外からの流れに惑わされる街になってほしくない」と話す。
また「博多部と天神部をともに徒歩20分圏内の回遊できる好立地。博多・天神とも街づくりが盛んだが、近場で競い合うのではなく、それぞれの個性の軸を伸ばし、良い距離感で共存していくべきだ」(同)という。
本業の合間の打ち合わせについて「のんびりしているようだが、なぜか企画の実施直前で決まる。皆が暖かいからかな」と友添さん。「会議の順番などを当番制にして義務化するつもりはない。そうなるとビジネスになってしまう。その時は止めた方がいい」(比田勝さん)と加える。今後の春吉ブランドの企画を練ることに余念がない。雑談の中から「こういうのはどう?」と生まれるという。友添さんは「皆が楽しめればという『ノリ』やもんね」-会議室に笑い声が響いていた。
文/編集部 秋吉真由美