特集

天神の「人・ひと・ヒト」 Vol.3
「福岡をカタチに」――企画・編集フリーランサー 帆足千恵さん

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■保護観察官からタウン誌のライターへ

大学卒業後、就職活動と並行して受けていた公務員試験に見事合格し、民間企業の内定を蹴って法務省に入省。保護観察官として、約1年半勤務。福岡・久留米市内の保護観察事件約150件を担当する。「このタイミングでしかなれないと思って内定を取り消して公務員に。でも仕事は面白かったが、なんとなく合わず、転職を考えていたとき、(タウン情報誌の)『シティ情報ふくおか』で求人情報を見つけた」という。


街づくりに興味を持ち、「福岡の街づくりに関わることができる仕事ができればいいなと思っていた」という帆足さん。帆足さんが書く文章を見た当時の保護観察所の課長の「君は文章を書く仕事が向いているんじゃないかって僕は思うよ」という言葉も背中を押し、「文章を書く仕事をしてみようかな」と決意。当時、「シティ情報ふくおか」を手がけていたプランニング秀巧社に入社する。


同誌では、演劇やアート、グルメなどのジャンルを担当したほか、「屋台物語」「麺’s BOOK」などの別冊チームにも所属。「2日間で100軒のラーメンを食べ歩いたことも」と振り返る。そして、観光に重点を置いた活動を行う、今の帆足さんを作ったきっかけと言える、同誌の特別付録の旅行情報誌「ちっき」の編成を手がけることになる。当時は、ちょうど出産を終え、仕事復帰をしたところだった。


子どもが2歳になる前から保育園に預け、取材に出向くように。小学校に上がるまで、1年間で約2カ月は家を空けるという多忙な日々を送っていたという。「ちっき」の編集を手がけた約4年間でのべ240日間、海外・国内約50都市を飛び回った。少人数での制作のためカメラマンも兼任し、通訳もいなかった。当時、英会話が堪能ではなかったが、ジャスチャーを交えながら必死に取材先に向かっていたという。リゾート地や世界遺産を巡り、オーロラも見た。「世界遺産などの観光地巡りももちろん良いが、旅行の何が面白いかって、現地の人とのふれあうことが一番」と帆足さん。「地図を広げていると、『どこ?』『どこに行きたいの?』と声をかけてくれる。教えてくれたところが間違っていたりもするんですけど(笑)。また、お店の人に何がおすすめかをたずねたり。案内されながら、だまされていないか緊張しながら歩くとか(笑)。文化の違いも感じられる。そんな出会いが一番心に残る。それが旅行の一番の楽しさ」。取材の旅を続けるにつれて、英会話も少しずつ堪能に。「忘れられない旅もある。人とのふれあいが旅行って本当にいいな」と笑う。


そのころより、疑問を感じ始める。「九州・福岡にくる観光客は果たして満足して帰っているのか。福岡に遊びに来たとしても、本当に面白いところがないと、リピーターを作ることができない。旅行はリピーターがとても大事。一度行って、次もまた来たい!と思ってくれないと人は増えない」――。


入社して約10年、「ちっき」の編集も終わり、海外からのインバウンド事業に興味を持ち始めたころ、リクルートの旅行情報誌「九州じゃらん」へ転職する。台湾・香港で3万部を発行した台湾語の九州の観光ガイド「自覧遊九州」の企画・営業・プロデュースを行ったほか、韓国の旅行情報誌「AB-ROAD KOREA」、長崎県の韓国語・中国語パンフレットなどを制作する。「運転免許は持っていません」。取材先には、すべて公共交通機関を使って動いた。「外国人って本当に不便だなーと思いながら…(笑)」。


リクルートでの約3年間の勤務後、西日本リビング新聞社に移り、フリーペーパー「シティリビング」の編集を手がけるほか、韓国人向けの九州観光サイト「九州路」を立ち上げる。同サイトで、個人旅行の助けになるようにと、韓国人に人気の温泉に目をつけ、九州の温泉旅館の予約がサイト上でできるシステムを提案。今では、人気サイトに成長している。


それから4年後、フリーランスに転向。福岡観光サイト「よかなび」のコンテンツ編集長を務めるほか、観光を基点とした業務を継続している。


観光に根付いた仕事に向かったのは、「やはりシティ情報ふくおかの編集部で『ちっき』を手がけたことが大きい」と帆足さん。「旅行は好きだったが、あんなに海外を旅行したのは初めてだったし。本当に財産だと思う」。


■当時の上司が20年ぶりの面接

帆足さんは5月1日より、「財団法人福岡観光コンベンションビューロー」の広報係長に就任。同法人が民間から人材を募集するとの知らせを耳にし、さっそく応募したという。論文や課題をこなし、見事試験をパスしていく。面接では、帆足さんが所属していた「シティ情報ふくおか」の当時の編集長(現・福岡市市長室広報課課長)の佐々木喜美代さんが面接官を務めるなど、同じ面接官を前にした約20年ぶりの面接も体験。「懐かしくて…。当時は私も生意気で。佐々木さんが私に何ができるのかを問われると『何でもできる、やる気だけはあります!』みたいなことを話していた気がします」。「20年後の面接では佐々木さんに『ありがとうございます』まで言われて…20年の時がたったんだなーと、しみじみ。しかも英語の面接はボロボロで…面接では、自分の足りないところに気づかされ、気持ちが引き締まる思いでした(笑)」。


帆足さんの口からは、福岡を少しでも良い観光地にするアイデアが次から次に飛び出す。昨年4月より博多港には中国からクルーズ船が入港している。「中国の方はショッピングが大好き。日本で買うこともステータスだったりする。でも観光地を巡ったあと、買い物に使える限られた時間で上手く回れるようなガイドが無いと不親切」。コンパクトシティの福岡の良さを最大限に生かしきれていないという。「天神は百貨店、商業施設がコンパクトにまとまっている。『知っていたら、行けたのに…』という距離。天神を中心とした、ここでは何が買えるなど、買い物に特化した『お買い物マップ』を作りたい」。


また、「観光案内所がニューヨークのチケットボックスのように、『当日に観劇ができる公演』が分かり、すぐにチケットが購入できるシステムになるのもいい」。そのほか、「福岡のイベント情報などをまとめた、メディアをはじめとする関係者専用の情報サイトも立ち上げたい」とも。


■福岡をカタチにしたい

5月からは、福岡観光コンベンションビューロー広報係長として、観光地「福岡」の広報活動に今後、一層の活躍が期待される帆足さん。観光のほかにも、趣味の幅は広い。「プライベートでも旅行は大好き」。国内外を飛び回る。


また、西日本リビング新聞社在籍時より、地下鉄沿線情報誌「subクリップ」に福岡の街を舞台にした短編恋愛小説も執筆。その反響は大きく、ストーリーに占い師が登場すると、「その占い師はどこにいるのか?」など、読者からの問い合わせも殺到するという。「小説家にもなりたい!目指すは芥川賞!」とか。


「『シティ情報ふくおか』時代には、将来自分が何をしたいのか、方向性など分かっていなかった」と帆足さん。同社に入社をしたのも、「ただ、福岡を形作る仕事をしたかったから」――。


「福岡を訪れる、福岡LOVEな人に向けて、その人が知りたい情報を流していければいいなと思います。ヨーロッパなどは本当にいろんな国の人が自由に行き来している。福岡もそうなれる地理的要素がある。気軽に来られて、ご飯もおいしい。住んでいる人が感じている福岡の心地よさを商品化したい。旅行中の限られた時間で、情報を知った上で有効に回れるような環境作りをしたいなー」。


そうにこやかに話す帆足さん。その笑顔から、人を惹きつけるようなパワーを感じる。海外からのお客様にそのパワーが伝わって、福岡LOVEなヒトが一人でも多く、増えますように…。




取材・文/編集部 秋吉真由美

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