特集

天神の「人・ひと・ヒト」 Vol.4
天神のカフェで開催 大人向け「お絵描き教室」講師 森田雅己さん

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■天神で気軽にお絵描き

「絵が苦手な大人向け、描けない人ほど大歓迎!」――場所は、薬院駅近くのカフェ「Lagon(ラゴン)」(福岡市中央区平尾1)。営業前の仕込みを行う店内の一角に、芸術家らしいクルンとした長髪の男性と向かい合い、和気あいあいと鉛筆を走らせる女性2人の姿。シャカシャカシャカシャカ。テーブルには2Hから6Bまでのさまざまな濃さの鉛筆が何本も転がっている。


「この色と、この色のちょうど中間の濃さをここに塗ってみてください」。「んーちょっと薄いかなぁ」。「迷ったら、用紙を離して見たらいいですよ」。「おー、できた」。「もうちょっと塗った方がいいかも」。


大人向けのお絵描き教室「もりもりのお絵描き教室」の授業風景だ。生徒におっとりした優しい口調で指導するのは、福岡出身の森田雅己さん。佐賀大学で彫刻を専攻した後、福岡へ戻りデザインを学ぶ。現在は福岡を拠点にフリーでアート活動を展開している。


2年前、今泉のバーで営業前の昼の時間帯を利用し、友人らと「お絵描き教室」を行ったのが始まり。「絵が描きたい人が意外に多く好評だった」と森田さん。しかし同店が閉店し、教室は一時休講するが、昨年夏、「気軽に絵を描く楽しさを伝えたい」と奮起。本格的に教えたいと決意する。アトリエやカルチャーセンターでの指導も考えたが、自身が思い描くイメージと条件が合わずに断念。敷居が低く、ふらっと立ち寄れる気軽さを重視し、飲食店やカフェを教室にした今のスタイルに落ち着いたのだという。


今では天神、薬院、平尾、赤坂、大名など固定のカフェ・レストラン7店舗と月替わりの1店舗、計8店舗で1回2時間を各店2講座、毎月計16のお絵かき教室を開いている。生徒は天神周辺で働く仕事帰りの女性が多いが、学生から60歳までと幅広い。


「仕事帰りに寄れるように基本的に天神周辺。まぁ、僕がチャリンコで移動できる範囲内っていうのもあります(笑)」。ほんわかした話し口調がホッとさせる森田さん。「ゆる­~い雰囲気でやりたかった」という教室の人気は口コミで広がり、教え子は約120人にも上る。


教える内容は主にデッサンの基礎。1回目は「線と明暗」線と影の描き方が中心。2回目は「遠近法」風景画を描き手前と奥の表し方を学ぶ。3回目は「静物画」。4回目は「人物画」。「僕を描いてもらいます」と森田さん。


道具はすべて無料貸し出しの紙と鉛筆のみ。計4回修了で卒業。「手ぶらでどこのカフェにいつ来てもOK。2カ月に1回でも、3カ月に1回でも、辞める時も自由」。修了時には森田さんお手製の卒業証書が贈られる。


■上手く描くコツを伝授

教室に入ると配られたケント紙と見本のモチーフの写真。1回目の授業テーマ「線と明暗」では、見本写真をじっくり見て、影の輪郭線を取りながら模写していくという。「鉛筆を定規代わりに線を引いて、ケント紙をまず16分割にしましょう」。見本写真には始めから16分割した案内線が入っている。ケント紙にもその案内線を再現していく。


「理論さえ知れば、絵心がなくても写真のような絵は描けるんです。絵が苦手という人は、イラストを描くように『もの』の輪郭を描いていくのが特徴。影を描いていくのが上手く描くコツ。なぜなら写真は光と影が焼き付いているだけだから」。16分割した案内線を頼りに見本写真のモチーフの輪郭と案内線の交点の位置を正確に読み取り、線を結んで形作っていく。バランスが心配であればさらにその箇所をさらに細かく分割し、交点を増やし、より正確なバランスを図っていくのだという。


「観察する力が重要。最初からうまく描けるわけではないので気にせず。鉛筆の先でどう上手く描くかは練習あるのみ」と作業に没頭する生徒にアドバイスを送る。配られた見本写真はケント紙の大きさに対し、同じ比率で縮小したもの。「分割して見本写真のバランスを読み取り、画用紙に再現していくこの方法は比率さえ守れば、好きな描きたい写真がどんなサイズであろうと、ハガキサイズや他のサイズに自由に応用できる」という。「また、きれいに描けた作品を人に見せるときに重ねて写したろうがー!と言われないための保険でもある(笑)」とか。



生徒が影を塗りこむ場面になると「俺にまかせろー!」と自らも鉛筆を手に取り手伝う。今回参加した生徒の一人が美容師という話題になると「髪を切れと周りに言われテンションが下がっている」。「結んだら結んだで、なんか変と言われ芸術家らしいとほめられるのはほんの一部…どうしたらいいでしょう」と悩み相談付き(?)の世間話も。笑い声が営業前の店内に響き、終始アットホームな雰囲気で授業は進んでいく。


初めて参加した美容師の山川登志江さんは「簡単な絵は描いたことあるが、習ったことは初めて。仕事場にチラシがあって、たまたま休みだし『なんとなく楽しそうだな』と初めて参加した。また習いたい」。


「全然、絵心なんてなくて…」と苦笑いしながら話す吉松幸さんは昨年4回受講した卒業生。「学生時代、美術の時間が苦手でした。描き出すと形になっていくのがうれしい」と絵の楽しさにハマり、卒業後も通っているという。


消しゴムを使った線の引き方やテクニック、「生涯14万7千点以上の作品を手がけたピカソは20歳ごろから1日の休みもなく、日々5点以上作らないと間に合わない計算になる」など、思わずへぇ~とうなってしまう芸術家豆知識も交ぜ合わせた軽快なトークで生徒を楽しませる。

■教室をきっかけにアートを身近に

「生徒が喜んでくれるのが一番。2回目には『先生書いてきましたー!』と言いながら嬉しそうに見せてくれる時はやってて良かったーと思います。教室をきっかけに絵を描ける人が増えて、街で開催されている美術関連の展覧会に足を運んでくれたりする人が一人でも増えてくれれば。卒業生の作品を集めて展覧会を開いても面白い」。


4回目までは基礎を学ぶため、描くモチーフは基本的に指定しているが、卒業後はモチーフの持ち込みが自由。「これを描きたい」と家族写真を持参した生徒も。「描き上げた作品が家族に好評だったようで『額に入れて飾ります』と感謝されたことも思い出深い」と話す。


また、「たま~に僕より上手な生徒も。ものすごく上手に描いてきて『先生アドバイスください!』って…。僕が習いたいくらい(笑)」。「先生的には非常に困ります(笑)」な場面も楽しんでいる様子だ。


初参加の生徒には「おうちでも描いてね」と鉛筆5本をプレゼント。「寝る前に10分程度でもちょこちょこ描いて楽しんでほしい。隠れた才能が今、目覚めるかも」。「年に1枚描いても10年で10枚の作品が完成する。描き方の理論さえ知れば、練習量で線の正確さや精度も上がる。自分の好きな線の種類や塗り方などを探して絵を描くことで日常生活が少しでも楽しくなるお手伝いができればうれしい」。


取材時、他の生徒に混じってデッサンを体験。影を塗りこむ部分に入り、鉛筆を走らせることに若干飽きてきた私に気づいたのか「そんなときは鉛筆2本そろえてダブルで塗るんだ!!」と隣から熱血お絵かき先生の声が。「ハイ!先生!!」――2人で鉛筆2本ずつ握りしめシャカシャカシャカシャカ…


2時間の楽しいお絵描き教室はあっという間。気軽に楽しく、ゆる~くがモットーの森田さん。おしゃべりが大好きで、教える瞬間、瞬間を自身も多いに楽しんでいるように感じた。コーヒーカップと鉛筆を交互に握って、森田さんの人柄にも触れて、ゆったりとした時間を過ごすのもたまにはいいかも。


文・写真/編集部 秋吉真由美

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