特集

「スローフードな映画祭」
今年で20周年-アジアフォーカス・福岡国際映画祭

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■今年で20周年

開催当初より、会場スタッフとしてかかわってきたという梁木さん。「当時はアジア映画がまだ上映されておらず、あまりの作品の見たさと期待に観客が殺気立っていた」という。第1回目は大洋や東映パラスなどで実施。10カ国地域23作品が上映され、1万724人を動員した。「客席は200前後の会場で、入れない遠方から来た客のクレームも受けるほどの反響だった」と振り返る。そうして始まった映画祭も今年で20周年。今では上映作品は約2~3倍になり、約2万人を動員する映画祭に成長した。


上映作品は社会問題を取り上げたもの、コメディー、ラブストーリーなどジャンルはさまざま。「質が良く、地域性が出ている作品」をポイントに選んでいると梁木さん。毎年、映画祭の終了直後から来年用の作品選びを始める。10月の釜山国際映画祭を皮切りに来年春までの約半年、インドやオランダ、香港、台湾など各国の映画祭に飛びまわり、150本以上の作品を鑑賞するという。


12月に行われるインドの映画祭に1週間行って日本へ戻ると体がめちゃくちゃ(笑)。必ず高熱を出してしまう」と梁木さん。また「良い作品に出会えないときもあって焦ります」とも。「本業の合間の作品選びで舞台裏はキツイ…」と妥協を許さない作品選びに苦労も絶えない様子だ。


■世代別おすすめ作品は?

「体を張った分、自信を持ってすすめられるものばかり」という今年は、日本初公開のインドネシアのサイコホラー作品「禁断の扉」(2009年)など、「どれも今年のアジア映画を代表する作品」というアジア18カ国・地域の41作品を上映する。「ハリウッド映画と同じ感覚で気軽にアジアの映画も楽しんで」と世代別のおすすめ作品を聞いた。


○10代に
「夢追いかけて」(インドネシア・2009年)
 昨年上映され好評を得た「虹の兵士たち」の続編。夢を持つ高校生3人に立ちはだかる親の失業。3人の子どもたちの成長を描く。「自分の道を切り開いていく、未来を見据えていく作品。引きこもりや後ろ向きな話題が多い今こそ、エネルギーがある作品を見て若い世代に元気になってほしい」(梁木さん)。


○20代~30代に
10月のソナタ」(タイ・2009年)
偶然出会った男女の恋模様を描く。「正統派ラブストーリー。日本ではもうこのような設定ではできないのではないかというほどの王道の恋愛物語」。


「お父ちゃんの初七日」(台湾・2009年)
父の急逝のため故郷に戻ったキャリアウーマン。田舎の伝統的な葬式に面倒さを感じながらもこなしていくコメディー。「亡くなってから初めて、伝統的な風習をきっかけに故郷の父の存在が浮き上がってくる。温かい作品」。



○草食系男子に
Eighteen」(韓国・2009年)
旅行に出かけたことが原因で両方の親から会うことを禁止された18歳の高校生カップル。彼は何とかして彼女に会おうとするが…。「周囲に反対されても、好きな女の子に会うためにいろいろな手を施し、決してあきらめない男の子。最初はロミオとジュリエットのような展開。非常に韓国らしい作品。草食男子におすすめ」。


○アラフォー世代に
「私のテヘラン」(イラン・オーストラリア・2009年)
オーストラリア人の恋人と結婚し、社会的制約が厳しいイランから脱出しようとする女性が主人公。「出国したいけど、エイズ感染など問題が立ちはだかる。人生と戦う映画。女性の強さが見える作品」。


○50代~60代に
11時10分前」(トルコ・フランス・ドイツ・2009年)
新聞紙収集家の孤独な老人。古いアパートで新聞紙に囲まれて生活している。「決して自分の生活を変えないガンコおやじ。そんな頑固さはうらやましい」。


「ばあさん」(フィリピン・2009年)
孫同士が事件の加害者、被害者となった2人のおばあさんを描く人間ドラマ。「孫を助けたい一心で裁判所へ出向き、がんばる姿が印象的。2人のおばあさんの強さに感心する作品」。


○天神で働くすべての女性に
「セックスワーカー」(香港・2007年)
ナイトクラブで働く女性を通して中国返還後、変わっていく香港社会を描く。「2007年の作品だが、どうしても選びたかった作品。何世代にも渡って描いており、すべての女性に見てほしい」。


■スローフードな映画祭に

同映画祭は、出品作品の監督や俳優の来福も楽しみの一つ。昨年より、梁木さんの提案でオープニングセレモニーを行う会場にレッドカーペットが敷かれるようになった。毎年、会場に多くのゲストが顔を見せ、上映後のロビーでは大サイン会が開かれることもしばしば。興奮した観客と気楽にコミュニケーションをとる姿が多く見られ、会場はアットホームな雰囲気に包まれる。


「地方・福岡の規模だから、気軽にゲストと話せる。こんなに会場付近がゲストや観客でごちゃごちゃになっているのはウチだけでは?(笑)」。運営や準備に関わりたいというボランティアも年々希望者が増えてきているという。「ゲストや作品を始め、人との出会いがこの映画祭で広がってほしい」。


作品に関しては「これからも質で勝負」と梁木さん。「玄米菜食、スローフード。噛めば噛むほど味が出るような。じわっと体に効くような。そんな映画祭を目指したい」と笑顔を見せる。





取材・文/編集部 秋吉真由美



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