特集

オンリーワンの「かぶりモノ」劇団
「ギンギラ太陽’s」が伝える天神の魅力とは?

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■最初は10分間のコントから始まった

ギンギラ太陽’sは当初、福岡市内で活動していた「幻想舞台」という劇団の別ユニットとしてコント的なゲリラライブを展開していた。「福岡ならではの芝居を作りたい。福岡都市圏の方が楽しんでもらえる地元のエンターテインメント作りたいと模索していた」と大塚さんは話す。その当時、天神は第2次流通戦争の真っ盛りだった。イムズやソラリアプラザが出現し、ユーテクプラザ(現ジークス)が一人負けして…という状況を目の当たりにした大塚さんは「ドラマのようだった。これは、面白いと感じた」という。

1997年、主宰の大塚ムネトさんが現在のギンギラ太陽’sを結成。最初に演じた作品は、天神の流通戦争を題材にしたものだった。その後、戦後の天神を描いた「天神開拓史」やバス会社の競争を「任侠映画風」に描いた「路線なき戦い」、和菓子の世界を舞台にした「ひよ子侍シリーズ」など、地元ネタを題材にした様々な劇を上演してきた。1999年には福岡の中心にある西鉄ホール(天神2)が竣工。地元劇団としては初めて同劇場に進出を果たし、当初から約二千名の動員を記録したという。その後、約三千名の動員を記録し、2005年10月には、東京・パルコ劇場で地元と全く同じスタイルで上演し1,740名を動員した。「東京の方でも、意味を理解してくださり、反響がよかった」と大塚さんは言う。

2006年4月20日~30日は、同劇団にとって初めてのロングラン公演で「スーパーマーケット三国志」を上演。休日・祝日はチケットが完売したほか、4,500名を超える観客動員数を記録し同劇団の記録を塗り替える結果になった。「今回の劇は、回を重ねるごとに客が増えていった。きっと口コミでギンギラ太陽’sの面白さが広がっていったのでは」と西鉄ホールの仁田野さんは話している。


■ディープな話題を作る秘訣とは?

地元の劇団でロングラン公演を行い、4,500名を超える観客を動員する劇団は稀である。天神などで起きている地元ネタをどのようにして拾っているのだろうか。大塚さんに話を聞いた。

-脚本が出来るまでの製作過程は?

「ギンギラ太陽’sの作品を作る時は必ず取材をすることを基本にしている。まず、題材が決まったら必ずその場所に行き、担当の方に必ず話を聞く。文字情報だけでは読み取れない部分が実際にあるので、現場ならではの空気を肌で感じ取ることがとても大切」

-実際の台本制作に費やす時間は?

「取材の段階では何十時間にも及ぶ芝居を作れるくらいのネタを集め、そこから2時間分のネタを使用して作る。だから、脚本を短くするのに苦労する。約十時間の芝居が出来る中から、その当時の世相に合う面白いネタをピックアップするのはものすごく考える。取材を含めて考えると、台本を作るのに半年くらいはかかっている。仕事をしながら、ずっと追い続けて1~2年を費やして完成することも」

-取材先には簡単に受け入れられるものですか?  

「最初のコントは、勝手に想像して作った。その時のアンケートに、『うちの店のことは私に聞いてください』というコメントをもらったので、そこから地元の企業の方とつながりが出来た。劇団は地元の人に支えられて出来ている。東京公演の時、東京の方から『勝手に店の屋号を語って上演して怒られませんか?』という質問をされたが、怒られたことなど一度もない。東京の方が、ものすごく驚いていた。怒られるどころか、お店のデパートのイベントに呼ばれている。(笑)地元の企業が怒るどころか皆さんが面白がってくれている。地元企業の方は、懐が深いと思う」

■自分の街について「何も知らない」のはもったいない

-演劇を通して伝えたいことは?

「福岡の中でも天神という街は常にダイナミックに変化している。そして街の中には、例えば『交通の便利をよくしよう』『流通をもっとよくしよう』など、それぞれに命をかけて一生懸命働いている人たちがいる。私は、そういう人たちに感動し、その感動を演劇で伝えているつもり。だって、自分が住んでいる街のことを全然知らないって、もったいないと思いませんか?日々通っている天神は、家と会社の往復だけだが、例えば通勤で使う電車には泣ける話があるし、駅やデパート、新天町などにも語り尽くせないストーリーがある。そうした話を知っている方が、楽しくなるし、街を身近に感じることができる。せっかく住んでいる街なのだから、その街の魅力をみんなで再認識して欲しい。私たちは、実は街から恋をされているようなもの。例えば、お店は『あの人は、どんなものを置いたら買ってくれるのだろう』とか交通なら『どういうサービスをしたら乗ってくれるのだろう』というように、私たちは、それぞれから愛されている。だから、たまには、その思いを受けて街に『ありがとう』って言ってもいいんじゃないかと思う。毎回いろんな題材で芝居作りをする中で、どれか一つのキャラクターを好きになって帰って欲しいと思う。そして、何か一つでいいのでその人と街との繋がりのきっかけになってくれたらと思う」

■地元を愛する「きっかけ」を作る劇団

「地元の方にしか分からない作品を作っていきますのでよろしくお願いします」と言って同劇団は毎回幕を下ろす。観客は劇を観て、笑い、時には感動しながら福岡のことを深く学習する。天神は、現在「第四次流通戦争」の真っ盛り。2005年には天神ルーチェが出現し、今年3月には中洲の玉屋跡地に「gate’s(ゲイツ)」が一部先行オープンしている。「私は、新聞のどこを見ても面白くて仕方がない」と大塚さんは目を輝かせて話す。大塚さんは暇さえあれば街へ出て、百貨店の人の入り状況を見て喜んだり心配しているという。「私は、天神や福岡の建物などの『モノ』のファン」(大塚さん)。

地元をこよなく愛する脚本家が描く福岡のモノによるヒューマンストーリー。その作品は、今を生きる私たちに、福岡の面白いウワサと「へぇー」と唸らせる歴史を再認識させてくれる。そして、地元に愛着を持つきっかけを常に与え続けてくれている。街の変化と共に息づく劇団の新しいカタチから目が離せない。

ギンギラ太陽'S

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