特集

「九州の焼酎を世界へ」
地場銘品の再創造ビジネスで飛躍「ルネサンス・プロジェクト」

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■九州の名産を伝える使命感

――「消費者は二極化している」。中村社長の第一声はこれだ。現在、百貨店をはじめ、多くの分野でうたわれている「上質」というホットワード。現代のマーケティングのカギとなるキーワードがやはり、ここでも上がってきた。「安ければよいというわけではない。クオリティーが高いものを求める傾向にある」――と中村社長は断言する。

総合商社に勤めたサラリーマン時代。ローテーションな毎日を送っていくなか、東京一極集中で、本部の近くでないと自分の意思の通ったビジネスが進めにくい――と、当時、籍を置いていた会社の業務体制に疑問を持ち始める。転勤も否めない。それで果たして後継者は育つのだろうか――地域に密着し、じっくり商品を育てていくことは難しいのではないか――これらの疑問が中村さんの背中を押した。

 「九州支社で手がけてきた地場産業育成の仕事に没頭したい」――思い切って会社を辞め、2006年3月「ルネサンス・プロジェクト」を設立。自身が願った道を進み始める。

「なぜ焼酎なのか」――「九州の代表的な産品といえば『焼酎』。焼酎にはクオリティーのギャップがある。『安い、まずい』から『高い、うまい』へシフトチェンジするべき。九州にある、数多くのおいしい焼酎が、大都市圏のマーケティングではほぼ知られていない」と中村社長。「この九州の文化を伝えるべき」という熱で突き進む。

現在、同社は焼酎60種、無農薬、有機栽培のぶどうで作ったビオワイン40種の計100種類の商品を卸し販売している。「健康的なものなど、自信を持って勧められるもののみを扱う。嫌いなものは扱いたくないだけ」とあえて商品拡張はせず、分野を絞った商品開発を行っているという。

■商品企画のカギを握るのは「女性」

同社の戦略において、ものさしの役割を担うのは常に「女性」。繊細で流行の変化に敏感な「女性」に合わせて「自社の商品もまたたく間に変わり続ける時代に順応していけるように」という中村社長。「デザインや、健康に良いものを求め、選択の嗜好(しこう)を深堀りするのはどちらかといえば、女性が多いのではないか」と分析。「今後も『どう選ばれるか、どう選んでいくか』を突き止めていかなければ。そんなセレブではなく、『セレクティブ』な消費者と一緒に歩んでいってこそ、企業も成長する」と話す。

2008年のバレンタインでは、そんな「セレクティブ」をターゲットに据え、博多の老舗「チョコレートショップ」と共同で焼酎を使用したチョコレート「月酎(GET YOU)」を企画販売したほか、2007年の日本産業デザイン振興会の「グッドデザイン賞」を受賞した焼酎「八起」は有田焼の瓶を使用するなど、細部までこだわりを見せる。

もちろん、金額も「セレクティブ」が喜ぶ価格を設定。企画段階で、自分だったら買うという金額より必ず以下に設定した上で、商品構成を行っていくという。この「セレクティブ」な価格も同社のウリだ。

バレンタインの焼酎チョコ「GET YOU」。ネーミングも面白い。主に30代独身女性を想定してネーミングを考案。「1人のときに対話できない商品は出したくない。商品には魔物が住んでいる。単なる工業製品ではなく、魔物を解き放って、人々の幸せにどう貢献できる商品になるかどうかがカギ」だという。

■福岡の懐の深さが詰まった「OPEN」

――「福岡の良さといったら『オープン』なトコですね」――商品の企画開発の傍ら、福岡の良さをそのままタイトルに付けた季刊誌「OPEN」を2007年に創刊。創刊号は1万部、現在、書店に並ぶ第3号は3万部を発行、1万5千部を売り上げた。今年4月には第4号の発行を予定している。書店のほか、コンビ二でも販売しており、今後も拡販し「福岡の良さを日本全国、世界へ少しでも広げていきたい」と期待を寄せる。

誌面に登場するのは、同社が商品を卸す福岡の飲食店。「10年後、20年後、福岡を代表する料理人を応援したい」。ここでも「福岡愛」に満ちた社長の思いが創刊の根本にある。

商品を卸す店舗を選ぶ基準は、食事と酒の相性。「マリアージュが楽しめるか」――。「食材に気を使っているか」「メニューが同社の商品にフィットするか」。同誌では商品と店舗を紹介し、誌面でもマリアージュを再現している。「バックナンバーの取い合わせも増えてうれしい」と笑顔をのぞかせる。

同誌には「福岡注目エリア探訪」と題し、エリアにスポットを当てた特集ページも。次号では天神・大名・今泉などの特集を予定しているという。「今、注目しているエリアは?」との問いに「通勤中に自転車で通る、大手門や港地区」と答える。キラリと光る名店が隠れているとか。地元を愛する企業という視点で見る、福岡・天神エリアについても聞いてみた。「次に突き抜ける新しい動きをどこがつくり上げるかが期待。博多の再開発を待たなければならないかもしれないが…。東京の流行りものがそのまま来るのは面白くないし、寂しい」とまゆをひそめる一面も。

■未来からの逆走が時代を作る――九州の焼酎を世界へ

「会社は楽しいね」――「数多く困難に直面するが、それも楽しい」と中村社長。「人生は障害物競走。会社の経営も同じ。自分の回りに起こる物事は自身が引き寄せていることだから…。チャンスも見方によっては、そこら中に転がっているもの」と笑う。視点を転換する力を持てるか否か、だと社員にも言い聞かせているという。

未来を良く見据えて、作り手、売り手にどれだけのメリットを提案していけるか。常に「新しい発想で会社経営を」との思いを念頭に行動しているという。
「飲めば飲むほど健康になる酒を作りたい」――現在企画中という、漢方の素材を使った商品づくりのほか、以前より進めているワインと九州焼酎の相互輸入「サムライ焼酎プロジェクト」では、「世界にサムライ焼酎を広め、日本の生き方を感じてほしい」とパリ・ミラノ・ニューヨークなど情報発信拠点を中心に、より一層「九州焼酎」を売り出していきたいとしている。

日本のおとぎ話「わらしべ長者」が好きという中村社長が紡ぎ出した「人」との出会いから現在は昭和の時代の、あるキャラクタービジネスの映画化にも関わるなど、「人」と「焼酎」から生まれてくる可能性は多方面に広がっている様子。また、M&A、酒蔵買収などを見据えた社員教育にも手を抜かず、「社長創造企業だ」と社員に宣言しているという。

「人」と「地元」を愛する手から生まれた焼酎が世界にサムライスピリッツを巻き起こす日はそう遠くはなさそうだ。


文/編集部 秋吉真由美

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